この記事では、製造業の基本中の基本である5Sですが、その5Sが製造業をダメにしたと言われていることに触れ、なぜ5Sがそう言われているのか理由を踏まえて、“正しく5Sを実践する方法”を当社の事例を交えて紹介します。
目次
5Sとは
5Sとは、以下の言葉の頭文字になっています。
・整理(Seiri):要らないものと要るものを仕分けて要らないものを捨てること
・整頓(Seiton):必要な物をいつでも誰でも取り出せ使える状態に並べて表示しておくこと
・清掃(Seisou):きれいに掃除をしながらあわせて点検すること
・清潔(Seiketsu):きれいな状態を維持すること
・躾(Shitsuke):きれいに使うように、決められたことを実行できるように習慣づけること
言わずと知れた、製造業の基本中の基本で、新入社員で入社したときから徹底的に言われることです。
「現場をきれいにしろ」
「作業スペースをきれいにしろ」
という“きれいにする”を要素分解して考えるとこの5Sになります。
“5S活動”と称して安全と並んで重要な基本事項として活動に取り組まれている会社も多いことでしょう。
しかしながら、どの企業も5Sは業務の基本として重々承知していながら、なかなか定着しないのが現実です。
部署や事業所の方針に「5Sの徹底!」と原点回帰で掲げる会社もあることから、意識しないと如何に定着しないかが伺えます。
さて、今回は、私がこれまでにコンサルティングを実践した中で、5S定着が上手くいった、あるいは5Sが自然と定着していたお客さまの共通点の中から、具体的にどのように定着させていったのかを紹介します。
YouTubeでも配信していますので、ぜひご確認ください!
まず、5Sを正しく行うためにも、なぜ「5Sが製造業をダメにした」と言われているのか、その背景と理由を探っていきましょう。
5Sが製造業をダメにした?
製造業の基本中の基本と言われてきた5Sですが、一部では「5Sが製造業をダメにした」という意見もあります。
そういわれてしまうまず一つ目の理由は、5Sというフレームワークが誤った方法で実践されてしまった場合、逆に生産効率を低下させる可能性があるためです。
例えば、作業場ですぐに手が届くところに工具が置かれていればいちいち取りに行く手間が省けるところ、5Sの整頓(Seiton)を優先するあまりに工具を取りに行く動作が増えてしまい作業性が落ちてしまう、といったことがあります。
また、その他の改善手法と組み合わせて取り組むべきところを5Sのみに頼り切ってしまった結果、良い改善が実施できないことがあります。
例えば、ポカヨケなどの装置との組み合わせで安全対策や作業ミスの撲滅をしたいところ、5S活動のみに頼り切ってしまい、肝心の改善活動を実施するに至らずに安全性や品質の確保ができない例があります。
もう一つ、「5Sが製造業をダメにした」と言われる理由は、従業員の意識の欠如です。
5Sで言えば躾(Shitsuke)に相当する内容なのかもしれませんが、組織全体の意識と取り組みが必要であるにもかかわらず、5Sの具体的な手法だけに偏ってしまい、従業員の5S活動への参加意識が不足してしまうと5Sの効果が組織全体としては発揮されないことがあります。
例えば、清掃(Seisou)には清掃をしながら日常の点検をすることも含まれています。
ボルトのゆるみや油の飛散などに気が付いてその原因対策につなげるというものです。
しかしながら、結果としての点検のはずが目的に変わってしまい、5S活動ではなく問題点探しになっていってしまいます。
広い工場、数多くの注意点がある生産工場の現場においては、細かい注意点が増えるほど大事な注意点を見逃すリスクも高くなります。
点検を重視するあまり結果的に注意力が散漫になってしまい、本来基本として行わなければいけない現場をきれいにする意味での清掃がそっちのけになってしまう、5S活動ではなく点検の見逃しにピリピリした現場の雰囲気になってしまうということがあります。
いずれにしても、「5Sが製造業をダメにした」という意見が出る背景には、5Sの具体的な手法や5Sで得られる結果のみを目的とした活動にシフトしてしまうことがあると言えます。
5Sは生産現場の改善手法のうちの一つの基本活動にしか過ぎないため、現場の改善をしていこうと考えた場合には、5Sを基本としながら他の考え方や手法と組み合わせながら考えて実施していくことで効果を生むと言えそうです。
それでは、この5Sをどのように正しく実行していくのか、そのステップを見ていきましょう。
ステップ1 なぜ5Sを実施するのか目的を共有する
ここで改めて質問です。
なぜ5Sが大事なのでしょう?
各製造業のお客さまに聞くと、こういう答えが返ってきます。
「キレイな方が気持ちいい」
「モノを探す無駄な時間が減る」
「作業効率が上がる」
「生産性が上がる」
「作業が標準化される」
etc…
確かにそうなのです。
確かにそうなのですが、これだと途中で行き詰まります。なぜなら、
“気持ちよさや作業のやりやすさは人によって違うから”です。
「オレはこの方がやりやすい!」
「オレは多少散らかってても気にならない」
「もう既にキレイだと思うよ」
価値観の違う人が集まる職場ですから、こんな会話になってしまうのです。
これだと継続も定着もしません。
5S活動が上手くいっている会社はどういう目的を掲げているのか。
【お客さまに自信をもって紹介できる現場にしよう!】
【新卒就活生が「ここで働きたい」って思える現場にしよう!】
こういった目的や目標を掲げています。
作業の効率性などのあいまいな目標ではなく、キレイとかやりやすさとか社員の個人レベルの基準でもなく、
『判断基準を会社から見た第三者におく』
ことがポイントです。
ステップ2 どこの5Sをやるのかを具体的に
さて、意識統一も済ませていざ5Sを進めようとしても、社員が各自バラバラに行動したのでは成果が見えにくいです。
これは、製造業に限らず、人は成果が見えにくいとモチベーションを保てない生き物だからです。
そこで、最初に「どこの5Sをやるのか」現場や職場の写真を撮りましょう!
写真を撮る作業自体は各自でやっても構いません。
各々が、どんな現場に対して5Sをやりたいかをとりあえず写真を撮ります。
そのあと数人のチームで議論しましょう!
「人によって基準が全然違うなぁ」
ということにも気が付くはずです。
そんな議論をしながら、どこをやるのか優先順位を決めるとともに、チームで集中的にどこの5Sをやるのかを決めていくのです。
そんなことをきっかけにチームのコミュニケーションも生まれ、5S活動に対する組織的な文化も醸成されていきます。
ステップ3 5Sの何をどうやるのかを具体的に
5S活動の目的もやる場所も決まりました!さあやりましょう!
これでもまだ不十分で、意外なほど進まないです。
そこには“5Sのあいまいさ”が関係してきます。
冒頭でも紹介したように、5Sというのは、整理・整頓・清掃・清潔・躾のことです。
場所を決めたとしても、要らないものを廃棄するなどして整理するのか、今あるものを並べ替えて整頓するのか、ほこりなどを取って清掃するのか、実は各自で思っていることがバラバラだったりします。
5S活動に成功している企業は、具体的に何をやるのか、ということまでチームの認識を共通にしています。
・壁をぞうきんで水拭きする
・1年以上使用していないものを棚から出す
・床面清掃でほうきで掃く
etc…
こんな超具体的なやり方までをチームで認識合わせしていると、
「まず要らないもの捨てようぜ!」
「まずエアでホコリ飛ばそうぜ!」
なんていうディスカッションが進み、具体的な作業方法をイメージできるので、作業に取り掛かれるようになるのです。
このコミュニケーションを、写真を見た段階でやっておかないと、いざ現場や職場に行ってみて、立ち尽くして、
「・・・どうする?」
「まぁ今日は時間もないし、また今度にしようか」
「やらなきゃいけないのは良く分かった!」
なんていう不毛な会話で時間をムダにしてしまいます。
何をやるのかを事前に具体的に話し合う!
ぜひやってみてください!
ステップ4 5Sをいつやるのかを具体的に
さぁ、どこの5Sをやるのか、具体的に何の作業をやるのかも決めました。
そうすると、その作業にどのくらいの時間がかかりそうなのかも見えてきます。
改めて言いますが、どこに対して、何をやるのかを決めるからこそ、どのくらいの時間がかかるのかが読めるのです。
なかなか5Sがうまく進まない企業は、
「この時間は5Sの時間!」
と先に決めてしまうのは良いのですが、限られた時間でできることしかやらなくなってしまい、大きな改善にはつながらなくなってしまうのです。
ちょっと脱線しましたが、いつやるのかもチームで事前に決めておきたいところです。
5S活動はやらなければいけないことだと頭ではわかっても、やっぱり一人で進めるのはけっこう腰が重いものです。
人によっては黙々と作業する方が好きな人もいるのでしょうが、大掛かりな作業が必要な場合にはどうしても複数人の方が良いです。
例えば、
・今週水~金の13:00~13:15の時間を使ってみんなでやる
・今週木曜の全体会議の後、9:15~9:45の時間を使ってみんなで集中的にやる
そんなことを決めていくと良いです。
実はこのやる時間を決めるというプロセスそのものは、活動の定着にとって非常に重要です。
ステップ5 5Sの記録を積み上げてモチベーションアップ
ここまで具体的に活動してきていれば、あとは、それをどのように継続していき定着させるのかが焦点になってきます。
これが意外と難しいのです。
いくつかのお客さまでの成功事例としては、
【成果を見える形に残す】
ことが共通のポイントとして挙げられます。
「どこをやるのか」のときに現場の写真を撮りました。それと同じ画角で、5S作業終了後の写真も撮るのです。
いわゆる、Before-Afterです。
実際に、5S活動の記録としてはこんな項目をA4用紙1枚に残していくと良いでしょう。
・活動No.(Aチームの5番目の活動なら、A-005など)
・実施個所(みんながそれと分かる表現で)
・実施者
・実施日時
・やる前の写真
・やった後の写真
・今後維持していくためにはどうする必要があるか
記録はなかなか面倒な作業かもしれませんが、ものすごくかしこまった感じでやらなくても良いです。
お客さまに提出するものでもなし、気軽に書ける範囲で書けばよいのです。
とはいっても、見る人が分かるように書くことは意識してください。
もう一つ、モチベーションを保つための事例で、
【お客さまに誇れる現場にしよう】
と目標を掲げていた企業様がやっていたことは、お客さまの案内係の従業員をローテーションで担当したことです。
お客さまを案内してみると、意外なことに気が付き、改めて気になることが出てくるものです。
そうした感覚をチームみんなが体験することによって、5S活動の定着を図っている企業様もありましたので、ご参考まで。
ステップ6 最後の仕上げに5Sの評価制度も
いよいよ最後の仕上げです。
実際に良い活動は評価しないといけません。それもまた定着させるポイントです。
これもまた順番を逆にやりがちなのですが、まず評価制度を先に作ろうとしてしまう失敗もよく見かけます。
「5Sやった人を評価するよ!って言っても全然進まない。。」
そりゃあそうです。
5Sを評価すると言われて、どこをどうやってやったらいいのか、何をどの程度やったら評価されるのか分からないのですから。
というわけで、ここまでのSTEP1~5を実施した上で、評価制度を作りましょう!
評価制度はかなり自由度が高く、企業や組織の文化に合ったやり方をそれぞれで決めれば良いと思います。
とあるお客さまで『従業員投票』を実施していた事例です。
先ほどのSTEP-5の記録項目のところで、“活動No.”があったのはそのためです。
半期に1回、
「これは良かったね!」
というものに従業員が投票して、その期間の最優秀活動を決めて、チームに金一封を出すというものでした。
その会社は、従業員20名に満たない小規模企業ですが、いや、だからこそかもしれませんが、従業員が方針を正しく理解して5S活動に取り組んでいらっしゃいます。
こうしたチームビルディングは見習いたいものです。
さいごに
製造業においては、5Sは基本中の基本であるため、たかが5Sと思われがちです。
ところが、「5Sが製造業をダメにした」と言われる理由や、この記事で紹介したSTEP1~6を、少し抽象度を上げて振り返ると、
・目的を明確に決めて共有する
・何をするか決める
・タスクに落とす
・期限を決める
・記録を残す
・制度を整える
まるでプロジェクトマネジメントです。
たかが5S、されど5S。
遂行と定着の要素はこんな基本的な5Sに詰まっていると考えれば、5Sを出来ない会社に良い改善やプロジェクトはできない、工場全体としての生産性も上がりにくい、ということも納得できます。
職場の5S、組織での5S活動の推進にお困りの方は、ぜひご相談ください。
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