ECRSとは、業務改善に取り組む際の順番と考え方を表したものです。
Eliminate(排除)、Combine(結合と分離)、Rearrange(入替えと代替)、Simplify(簡素化)それぞれの頭文字の略で、業務改善はこの順番で考えると良いと言われ、生産技術の考え方が根本にあると言われています。
2020年4月、いよいよ中小企業にも「働き方改革関連法案」が適用されました。限られたリソースで今と同じ、あるいは今以上の成果を出していくため、業務効率化に向けた取り組みを加速させたい企業も多いことでしょう。単に「業務効率化」といっても、具体的に、何をどうやったら良いのか、各現場に合った方法を考えていくことは簡単なようで難しいです。
今回は、業務効率化のヒントになるであろうフレームワークとして、「ECRS(イクルス)の原則」について、事例を交えながら紹介していきます。
動画にてわかりやすく解説しています。ぜひ一度ご視聴ください!
目次
ECRSの原則とは
ECRSとは、
- Eliminate(排除:取り除く)
- Combine(結合:つなげる)
- Rearrange(交換:組み替える)
- Simplify(簡素:簡素化する)
の4つの頭文字を指します。現場の問題点を洗い出した後、「じゃあどうやって解決していこうか」というときに役に立つ考え方が、この「ECRS(イクルス)の原則」です。
特に、製造現場の業務効率化のために考え出された手法なので、製造現場、あるいは製造業の間接業務的な現場では大いに効果を発揮してくれることでしょう。
ここでの注意点は、E→C→R→Sの順番で考えていくことにあります。そこだけは念頭に置き、ECRSの内容を一つずつ内容を確認していきましょう。
①:Eliminate(排除)
まず最初に、問題となる作業を「取り除く」つまり「なくす」ことを考えます。
「この作業、本当にいるの?」
という考え方に立って、問題の作業や業務を見直してみましょう。
そんなとき、「そもそもこの業務は何のためにやってるんだっけ?」と業務の目的を考え直してみると良いです。意外と、やることが当たり前のようになっている作業でも、実はそれほど重要ではないこともあります。
業務プロセスに影響しない「悪しき習慣」は、思い切ってやめてしまいましょう!
- 会議にムダにたくさんの人を招集しない
- 会議の開催時間予定を短縮する
- ただの情報共有のための定例会をやめ、システム内で情報共有する
- 儀式的な朝礼をやめる
- 拠点間の出張をやめてオンラインミーティングにする
なんて言われると、思い当たることもあるのではないでしょうか?
繰り返しになりますが、ECRSはこの順番で取り組むことが大切で、まずはEliminate(排除)を考えなくてはいけません。
その理由は2つあります。
1つは、Eliminate(排除)が最も効果が大きいことです。問題となっているプロセスそのものを失くすことで、問題を丸ごと解決することができます。問題の大きさを小さくする、一部を解決するのではなく、全部丸ごとなくせるのです。
2つ目の理由は、最もコストがかからないことです。問題のプロセスに対して新たに何か付け加えることなく解決が可能です。別のプロセスに新たに何かを付け加えることで問題のプロセスを失くす場合もありますが、費用対効果は最も大きい方法だと言って良いでしょう。
Eliminate(排除)を考えることなく改善を進めると、余計なものを付け加えるコストにプラスして、チェックするなどの工数負担も増えてしまう可能性が出てきます。
くれぐれもECRSの順番を守ってください。
②:Combine(結合)
次に、業務を「つなげる」ことを考えていきましょう。似たような作業を同時に行ったりすることで、全体としての工数を減らせないかを考えます。
具体的に言えば、
- 会議開催時に合わせて定例会も行う
- 個別メールをやめグループメールでまとめて送信する
- いくつかのデータ集計表をまとめて統合する
- 移動時間に経費精算や日報入力をする
- 目的が似通った部署を統合する
ということが挙げられます。なかなか立場がないとできないようなものもありますが、心当たりがあるものも多いと思います。参考にしてみてください。
③:Rearrange(交換)
ここまで、「Eliminate(取り除く)」「Combine(つなげる)」とみてきましたが、そう簡単にできるものではないですし、これ以上できないことも多いです。その場合の考え方がこの「Rearrange(組み替える)」なんですが、この言葉だけだと改善方法を想像することが難しいです。
具体例をみていきましょう。
- 資料作成は、テンプレートを作成しておいてからコンテンツを作成する
- お客さま訪問の順番を変えて移動のムダを減らす
- 会議を録音しておき議事録の作成に生かす
- 上職の承認が必要な資料を先に作成し、申請中に他の作業をする
- 業務の一部を外注する
こんな事例が当てはまるのかなと思いますが、手法としてはけっこう多岐にわたりますね。知恵の絞りどころと言ったところでしょうか。
④:Simplify(簡素)
いよいよ最後です。同じ成果を出しつつ、作業を「簡素化」つまり「簡単に」できないかを検討しましょう。パッと見で考えて「必要不可欠」に見える作業でも、けっこうムダな工程を含んでいることがあります。
作業をとにかく「シンプル」にするように考えれば、作業時間が減るのはもちろんですが、気にすることも減るので気持ちの余裕も生まれます。そんな気持ちの余裕は、ミスの削減にも直結します。
さらに、業務をシンプルにすることで作業の属人化を防ぐことも可能です。人が変わっても、同じ仕事を同じ品質でできるようになることも期待できます。
例えば、
- Excelの関数を適切に使って、入力を減らし自動計算にする
- 社内資料のテンプレート統一して標準化する
- 社内のみのメールは要件を簡潔に箇条書きするだけにする
- 共通部品の種類を統一する
という方法がありますね。
業務は常にシンプルに!
参考:ECRS(改善の4原則) – 日本能率協会コンサルティング
よく見る失敗例
さて、業務改善におけるよく見る失敗例は、ECRSの順番を守らないことにより発生するムダな対策に対するコスト、チェックのために発生するムダな工数です。
例えば、その典型例はデジタル化やITツール導入です。
とある企業において取り組んだ事例で、「作業日報の転記・集計作業を失くしたい」というテーマがありました。
このテーマ通りに進めたプロジェクトでは、ITシステムの開発によって作業日報の転記・集計作業は失くなり、一件落着かと思われました。
ところが、その2年後にITシステムの使用状況を伺うと、使用していないというのです。
よくよく聞くと、集計された作業日報の情報は、ほとんどの項目を誰もその後にデータ活用していないことが分かり、ITシステムの必要がなくなり、簡素化された紙の日報を運用しているということでした。
転記・集計作業を失くすという発想は、一見するとECRSのEliminate(排除)を最初に考えているようですが、失くさなければいけなかったのは転記・集計作業ではなく、作業日報へのインプット作業の方でした。
結果として、Eliminate(排除)に関する目の付け所を誤り、実施したのはITシステム開発による作業日報入力作業のSimplify(単純化)だけで、ITシステム開発費用はそのままムダになりました。
こうしたことにならないためにも、自社内で業務改善に取り組む場合には部門関係なくプロセス全体を俯瞰的に見渡すようにすることと、それが自社内で難しければプロセス全体を見渡せる外部の専門家に頼ることをお勧めします。
さいごに~業務効率化の本質~
「働き方改革」=「長時間労働の是正」のような誤った解釈がされる中、仕事のやり方を変えることなく同じアウトプットを求めて単純に時間だけを短縮しようとすると、商品(製品)・サービスの品質が低下します。
その結果、企業としての信頼性を損ね、業績の悪化にまで至ってしまうことでしょう。残業削減を目的にするのではなく、今と同じ、あるいは今以上の成果を出すために、「仕事のやり方を変える」ことにフォーカスしていくことこそが、業務効率化の本質であると考えています。
残業時間の削減、コスト削減はあくまでも業務効率化の結果。とはいえ、今までずっとやってきた仕事のやり方や慣習を一気に変えることは簡単なことではありません。
どう変えていったら良いのか、そのヒントとして、この「ECRS(イクルス)の原則」というフレームワークを活用してみることをお勧めいたします。