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「製造業における冗長性(余白)不足の影響マトリクス」とは
「製造業における冗長性(余白)不足の影響マトリクス」(以下「冗長性不足の影響マトリクス」)は、株式会社GEMBAコンサルティングが開発した、企業経営におけるリスク管理のためのフレームワークです。
リンク:「製造業における冗長性(余白)不足の影響マトリクス」を見る(PDF)
VUCAと呼ばれる不確実性の時代に、製造業の経営判断はますます難しくなっていますが、その判断材料を整理するために役立てていただきたいと思います。
参考記事リンク:
「どこまでムダを切り詰めればいいのか?製造業の「冗長性」という戦略」
「冗長性の影響マトリクス」の基本構造
縦軸には「冗長性の不足要素」として、設備の冗長性、部品・在庫の冗長性、人材の冗長性、場所・拠点の冗長性、資金の冗長性、情報の冗長性が並んでいます。
横軸には「おもな影響」として、時間への影響、信用への影響、コストへの影響、人への影響が並んでいます。
マトリクスの縦軸、横軸について解説します。
設備の冗長性:生産設備や機械設備の予備、バックアップの有無を表します。設備が故障した際の代替手段がどの程度確保されているかを評価します。
部品・在庫の冗長性:原材料や部品、完成品の在庫水準を表します。在庫切れや調達困難時の対応余力がどの程度あるかを評価します。
人材の冗長性:人的リソースの余裕度を表します。特定の人材に依存せず、多能工化や代替要員の確保がどの程度できているかを評価します。
場所・拠点の冗長性:生産拠点や事業所の地理的分散を表します。災害時やロックダウン時に事業を継続できる代替拠点がどの程度確保されているかを評価します。
資金の冗長性:財務上の余裕度を表します。緊急時の資金需要に対応できる現預金や融資枠がどの程度確保されているかを評価します。
情報の冗長性:データやシステムのバックアップ体制を表します。情報喪失やシステム障害時に事業を継続できる代替手段がどの程度確保されているかを評価します。
時間への影響:冗長性不足が原因で発生する遅延や停止の深刻度を表します。納期遅延や生産停止の期間がどの程度になるかを評価します。
信用への影響:冗長性不足が顧客や取引先からの信頼に与える影響の深刻度を表します。信頼喪失やブランド価値の低下がどの程度発生するかを評価します。
コストへの影響:冗長性不足が財務面に与える影響の深刻度を表します。緊急対応コストや機会損失がどの程度発生するかを評価します。
人への影響:冗長性不足が従業員や組織に与える影響の深刻度を表します。過重労働やストレス増加がどの程度発生するかを評価します。
マトリクスの各セルには、その冗長性要素が不足した場合に特定の観点でどのような影響が生じるかが記載されています。
たとえば「設備の冗長性」×「時間への影響」のセルには、設備の冗長性が不足した場合に、時間の観点でどのような影響が発生するかが示されています
「冗長性不足の影響マトリクス」でリスクを可視化
冗長性不足の影響マトリクスの最大の価値は、漠然としたリスク感覚を具体的に「見える化」できることにあります。
抽象的で漠然とした「リスク」を6つの要素と4つの影響観点に整理することで、何が最も深刻な問題になり得るかが浮かび上がってきます。
リスクを可視化し定義することで、効率化と冗長性(余白)のバランスをどのように取るのか、どの領域に冗長性を持たせるべきか、どの領域は効率化を優先しても良いか、いう判断材料となります。
限られた経営資源を最適に配分するための指針としてお役立てください。
また、冗長性不足の影響マトリクスは、経営層、現場管理者、一般社員の間でのコミュニケーションツールとして活用することができます。
たとえば、冗長性の重要性を共有するための「共通言語」として「なぜこの投資が必要か」「なぜこの余裕が重要か」を説明するときに役立つでしょう。
「冗長性不足の影響マトリクス」と経営計画
冗長性不足の影響マトリクスの評価結果を、自社の年度経営計画や中期経営計画に組み込むことで、戦略的で計画的な冗長性強化が可能になります。
具体的には、次のような事項を経営計画に組み込むことが検討できます。
・設備投資計画に予備設備の確保を盛り込む
・人材育成計画にクロストレーニングを組み込む
・財務計画に緊急時対応資金の積立を含める
冗長性マトリクスはBCPの基礎資料として活用できます。
マトリクスで特定できた脆弱性に対して、BCPで具体的な対応手順を定めることで、より客観的で、実効性の高い事業継続体制が構築できます。
「冗長性不足の影響マトリクス」活用の4つのポイント
冗長性不足の影響マトリクスを活用するための4つのポイントを紹介します。
1.現実的な評価……理想論ではなく、自社の現状を正直に評価する
2.重点的アプローチ……すべてを完璧にするのではなく、重要領域に集中する
3.全社的な共有……マトリクスとその意義を組織全体で共有し理解を促進する
4.継続的な改善……一度の取り組みで終わらせず、定期的に見直し改善する
これらのポイントを抑えながらマトリクスを活用することで、「効率化と冗長性のバランス」という経営の課題に対して、より体系的かつ戦略的なアプローチが可能になります。
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