私がこれまで経験してきた企業様では、悩みの大小はあれど、漏れなくと言って良いほどISO9001の運用について悩みを抱えていらっしゃいます。今回は、その悩みがどんなものなのか、そして私はその悩みに対してどのようにアプローチしていくのかを紹介していきます。
下記の関連ページと合わせてご覧ください。
>>分かりやすい簡単なISO9001活用術~分かりにくさと3つの運用ポイント~
動画でもISO9001に関する情報を解説していますので、ぜひご確認ください!
目次
ISO9001普及の背景
昨今では、益々の品質維持・向上が叫ばれており、その広がりは自社に留まらず、外部委託先などの協力会社にも波及しています。その自社も外部の得意先からの品質保証要求を受けて、ISO9001の認証取得を要請されている企業様も多いでしょう。その品質保証の範囲の広がりこそ、ISO9001普及の背景と言えます。その品質保証の手段として、ISO9001認証取得が最も手っ取り早いものであるということです。
ISO9001とは
ISO9001に対する世の中の理解度
経営者や、品質保証部門の方であればそれなりに理解があるとお考えかもしれませんが、私がこれまでお話ししてきた経営者や担当の方々は、必ずしもISO9001に対して理解が深いわけではありませんでした。
「ISOってトレーサビリティのことでしょ?」
「ISOって文書管理でしょ?」
というくらいの理解の方が思いの外多くいらっしゃいます。『経営者や品質保証部門の方がこの程度の理解では、日本の産業は危ない!』という危機感もあって、今回の記事執筆に当たったわけです。
中には、きちんと理解されている方ももちろんいらっしゃいますが、その周りの方や部下の方はやはり理解度が高くないという現実も見てきました。
ISO9001とは
ISO9001とは何か、と聞かれたら、私は杓子的にこう答えています。
【お客様の満足度を向上させるための、製品・サービスを開発・製造・提供する仕組みへの要求事項】
大多数がこれでは理解できません(笑) 続けてこう答えています。
【こういう仕事のやり方した方がより良いですよ、ということを教えてくれるもの】
ここまで行くと、大多数が「ふ~ん↗」となります。これが最初の一歩です。実は言葉で言えば簡単なのですが、そうは言ってもISO9001は世界標準ですので、このことが非常に難しい表現で書かれているわけです。
ISO9001に関する悩み
さて、ISO9001に関する悩みは、私の経験上では以下の2種に大別されます。
認証取得・維持をしていくべきかどうか悩んでいる
認証取得は必要だけど、今の品質マニュアルの完成度が低く、運用がうまくいっていない
それぞれについてもう少し詳細に見ていきましょう。
認証取得・維持をしていくべきかどうか
認証取得・維持に当たっては、少なからずお金がかかります。審査費用はもとより、審査のための準備や日常の内部監査、記録の維持管理等、日常的に工数をかける必要があるからです。
結論から申し上げると、取引先などから認証取得を求められていない限り、必ずしも認証取得をしていなくても良いと私は考えています。
その代わり、ISO9001の要求事項をうまく活用するなどして、自社の品質保証の仕組み(品質マネジメントシステム)を確立しておく必要は生じます。ただ、このときでも、やはりISO9001は参考書として非常に有用ではありますし、結果的に活用する方が方針が定まって社内活動もやりやすくはなります。
そういったことも踏まえて、最終的には私たち外部の人間ではなく、経営者様ご自身で判断されるのが良いでしょう。
運用がうまくいっていない
この場合、いくつか理由は考えられるのですが、私が経験してきた限りで多い理由のTop3は、
① 品質管理責任者(※2015年版では必ずしも任命しなくて良い)の理解度が低い
② 担当者の理解度が低い
③ 内部監査の指摘が有効でない(馴れ合いになっていて事なかれ主義)
です。それぞれ相互に関連はしますが、切り分けるとするとこの3点になります。
こちらに関しては、私たち外部の力を大いに活用し、解決に向かわせなければなりません。
ISO9001教育のSTEP
さて、ここからは、上記の「運用がうまくいていない」という悩みに対する私のアプローチを紹介していきます。それは『ボトムアップ型』です。ISO9001はトップダウン型の欧米がメインで作られている標準ではありますが、日本での仕組みの運用に関しては、必ずしもトップダウン一辺倒ではなかなか成功しません。成功していると思っている場合、現場ではものすごく不満が蓄積してモチベーションが上がらず、活気のない現場になっている場面もありました。日本では、歴史や文化を振り返っても、ボトムアップ型の要素がカギを握ると考えています。
STEP1 担当者への教育
まずは仕組みを実行する担当者に対して教育を行います。ISO9001の理解度としては、
【自分がやっている作業がどんな要求事項に基づいているのか】
を理解してもらうということを到達点とします。
現場の作業者にとっては、意味のない作業はなるべくやりたくないものです。プロセス全体を考えたら大事な作業であっても、それを実際に行う作業者にとってはただの煩わしい作業になってしまっていることが多くあります。
作業日報なんかはその典型例です。書く決まりになってはいるが、書かなくても仕事は回るし、作業者間の情報伝達であれば口頭で打ち合わせれば十分な作業です。従って、現場では優先順位の低い作業と言えるでしょう。
ところが、こういった作業が行われないと、決められたルールに対してどんなアクションをどの程度したのか、客観的事実に基づく判断が出来ません。
こういった事実の解消をまずは目指し、現場で行っている作業には基本的にはムダが無いようにルール化されているということを認識してもらう作業をいたします。
そのために、教育では現場で実際に使用している帳票を題材として使用し、その意味を理解していただきながら、ISO9001の要求事項と現場の作業の紐づけを行っていきます。
STEP2 品質管理責任者への教育
端的に表現すれば、品質管理責任者は、製品・サービスの品質を保証する仕組み全体に対する責任があります。当然ですが、担当者よりは視点を高く持つ必要があり重要な役割ではありますが、全プロセスに対する個別の責任は必ずしも管理責任者でなくても構いません。実は、この点はISO9001:2015への改訂で大きく変更になった部分でもあり、要求事項の中では「全ての階層のリーダー」という表現がされています。個別プロセスの責任と権限は現場リーダーに適切に割り当て、管理責任者はその全体の責任を負う、ということになります。この点に関する理解と自覚の程度が低い責任者、あるいはその候補者の方が多くいらっしゃり、経営者の悩みの種になっているケースも多いです。
この点を是正・教育するため、題材としては担当者同様に現場の帳票を利用し、
【なぜ現場にその作業をさせているか、どんな要求事項に基づいているか】
という視点で理解を促していきます。
STEP3 内部監査の是正
さて、ここまでくると仕上げの段階と言っても良いでしょう。ですが、ここは非常に重要です。なぜなら、外部の審査機関による審査では、ISO9001の「適合性」に関する審査は積極的に実施できても、その運用の「有効性」に関する評価は必ずしも積極的に行うことができないからです。
ISO9001の7原則の1つにも挙げられていますが、『継続的改善』が品質マネジメントシステムの重要なカギを握ります。品質保証をする仕組みそのものを改善していく仕組みが必要なのです。その大きな手段として、内部監査が位置付けられます。
内部監査のプログラムに問題がある場合、過去の指摘事項や現状で発生している不具合を元にして、プログラムを策定し直します。
内部監査の実態の質が低い場合、指摘事項の着眼点やそのフォローアップ内容含めて、私が同席して指南いたします。内部監査の委員長(多くの場合は品質管理責任者)に必要な自覚は、この内部監査のアウトプットは、マネジメントレビューのインプットとなっているという点です。つまり、その内部監査を元にして、仕組みの変更が必要かどうかを判断しなければなりません。この点を踏まえて「内部監査のアウトプット(報告書)で規定やルールの変更の必要があるかを判断できるか」ということを強く意識させるようにします。日常で不具合が多発しているのに、「規定やルールを変更するのは面倒」という理由で事なかれ主義で行くことは、管理責任者としての任務を放棄していることと同じです。一度決めたマネジメントシステムとはいえ、それを常に改善していく姿勢を持つような意識付けを、この内部監査是正の到達点としています。
ISO9001の教育方針
私がISO9001の教育をするに当たっては、
「ISOは簡単だ」
「ISOは当たり前のことを言っている」
ということを強く意識していただけるようにしています。正直に言うと、「要求事項の文章は掴みどころなく書かれているなぁ」と思うこともあります(笑) しかしながら、要はこういうことです!という解釈を簡単に伝えることで、担当者や管理責任者の方が「そりゃそうだ。」と思っていただけるようISO9001に対するハードルを下げるようにし、要求事項の《読み方》を教えるようにしています。
また、一方的な講義にならないよう、メンバー間や私との相互のコミュニケーションやディスカッションをしながら、1つずつ丁寧に疑問を潰していきます。このActive Learningが理解を深める大きな要素となります。
さいごに
ISO9001の教育には、それなりに時間がかかりますし、教育していく側の工数もかかります。
しかしながら、一定レベルまでの教育であれば外部の専門家にお願いしたほうが間違いなくコストパフォーマンスが良いです。
また、ある一定以上の品質マネジメントシステムのレベルアップに対しても、外部の専門家に運用の「有効性」を評価していただき、改善策を策定していくことが、悩んで停滞している時間をコストと捉えれば、非常に有効な手段であると言えます。
ISO9001は、認証取得することが目的ではなく、ISO9001を活用した顧客満足の向上と、安定的な高品質製品・サービスの提供が本来の目的です。ISO9001をただのレッテルにすることなく、継続的な改善に踏み込んでみてはいかがでしょうか。
動画でもISO9001に関する情報を解説していますので、ぜひご確認ください!
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