この記事では、製造業、とりわけ中小企業の製造業がどのように人事評価制度を構築したら良いのか、そして構築した人事評価制度をどのように運用するのが良いのか、ヒントを紹介します。ぜひご参考にしてみてください。
目次
製造業の現状と人事評価の重要性
製造業の現状と人事評価の重要性の内容として、製造業の特徴と中小企業の課題と、人事評価制度がなぜ重要かについてご紹介していきます。
製造業の特徴と中小企業の課題
製造業は日本経済の重要な柱の一つです。製造業だけでも国内GDPの2割を占め、さらにその製造業が製造したモノを使っている産業も含めると、その影響力は9割を超えます。技術革新、グローバル競争の激化、そして市場の急速な変化に対応するために、製造業の中小企業は特に機敏な対応が求められています。中でも中小企業には資源の限りがあるため、効率的な運営と継続的な成長が不可欠です。これらの企業は、しばしば限られた人的資源に依存しているため、各従業員の能力と貢献度を最大限に引き出すことが重要であるとともに、新たな人材の確保のためにも人材を評価する基盤が必要になってきます。
人事評価制度がなぜ重要か
ここで、各社で構築する人事評価制度の役割が重要になります。効果的な人事評価制度は、従業員のモチベーションを高め、能力開発を促進し、組織全体の成果に貢献します。さらには、人事評価制度は教育制度とも通じ、新規採用時にも有利に働くでしょう。特に中小の製造業においては、個々の従業員のスキルや成長が直接企業の成長に繋がるため、適切な評価とフィードバックを行うことは極めて重要です。運用される人事評価制度を通じて、従業員は自分の仕事の価値と成果を理解し、目標に向かって努力する意欲が高まります。また、企業側としては従業員の成長と貢献を適切に評価し、報酬やキャリアの機会を提供することで、社員の満足度と忠誠心を高めることができます。簡単な言葉に言い換えれば、会社に貢献してくれている人にはより良い評価をしたい、その思いを実現できるのが人事評価制度なのです。
このように、製造業の中小企業における人事評価制度は、従業員と企業の双方にとって不可欠な要素となっています。それでは、従業員の人数による規模で分けた場合の企業における効果的な評価のアプローチについて詳しく見ていきましょう。
従業員20人以下の企業における人事評価のアプローチ
従業員20人以下の企業における人事評価のアプローチとして、直接的なコミュニケーションと個別の期待の設定、具体的な例とその効果についてご紹介していきます。
直接的なコミュニケーションと個別の期待の設定
従業員が20人以下の中小製造業では、システマチックな人事評価制度は不要だと考えています。むしろ、構築した人事評価制度を運用することに忙しくなってしまったり、一度構築した評価基準での評価をせざるを得なくなったり、マッチしない事案が生まれてしまいます。中小企業の製造業では、社長や経営者が直接従業員とコミュニケーションを取ることが可能です。この規模では、個々の従業員の業務の進捗や能力を密に把握し、個別の期待を明確に伝えることが重要だと考えます。例えば、従業員一人一人に対して「期待する3つのこと」を書面で伝え、その成果に対して定期的にフィードバックを提供することが効果的です。このようなアプローチは、従業員が自分の目標を明確に理解し、それに向けて努力するための道筋を確立するのに役立ちます。日常的なコミュニケーションの延長と考えられるかもしれませんが、書面で伝える「期待する3つのこと」があると、コミュニケーションのベースができます。こうしたベースを持つことでブレずにより密なコミュニケーションをとることができるのです。
具体的な例とその効果
具体的な事例として、ある製造業の中小企業がこのアプローチを採用した場合を考えてみましょう。この企業では、社長が各従業員に個別の「期待する3つのこと」を書面で伝えました。例えば、製造ラインの作業員には品質向上、効率性の向上、チームワークの強化といった目標が設定されました。これらの目標に基づいて定期的な面談を実施し、具体的な個人レベルでできる行動について話し合って決め、その進捗状況を確認し、他の人への根回しや書籍の購入など必要なサポートを提供しました。その結果、従業員は自身の成長を実感し、モチベーションの向上が見られたとのことです。こうしたアプローチを従業員全員に行うことで、企業全体としても生産性の向上や製品品質の改善が実現しました。
このように、従業員が少ない企業では、個別の期待を設定し、それに対する進捗を定期的に確認することで、従業員の成長と企業の目標達成の両方を実現できます。社長は大変に感じるかもしれませんが、こうした小規模事業者は社長自らが個々の従業員と接しながら機動力ある経営ができることそのものが強みなので、面倒と思わずに自社の強みを伸ばしていると考えて実践してみましょう。次に、従業員が20人を超えた場合の人事評価制度の構築について見ていきましょう。
従業員20人を超えた場合の人事評価制度の検討
従業員20人を超えた場合の人事評価制度の検討の内容として、会社の目指す方向と人材の育成、職務定義書、資格表、評価項目の導入についてご紹介していきます。
会社の目指す方向と人材の育成
従業員数が20人を超えると、製造業の中小企業における人事評価制度の必要性が高まります。ここで重要なのは、会社がどのような将来像を描いているか、そしてそのためにどのような人材を育成したいかを明確にするとともに、それらを確実に従業員に伝えることです。この段階では、企業の長期的な目標と人材育成の方針が人事評価の基盤となります。従業員一人ひとりが企業のビジョンと自身のキャリアパスを理解し、自己成長を目指せるような環境の構築が求められます。
職務定義書、資格表、評価項目の導入
人数が増えるにつれ、組織内の役割と責任の明確化が不可欠になります。ここで職務定義書の作成が役立ちます。この書類には、各部署や役職の具体的な仕事内容と責任範囲が記載され、従業員が自身の役割を明確に理解する手助けとなります。中小企業では、役職者であっても、その役職の役割や責任の範囲が分からないまま仕事をしている人もいますし、越権があったり、逆に遠慮して権限を行使しなかったりして、業務や業務改革が進まないケースも多く見られます。ぜひ職務定義書を作成してください。
加えて、資格表を用いて昇格の段階を明確に示すことも重要です。例えば、ジュニア、シニア、リーダー、マネージャーといったキャリアパスを示し、各段階で求められるスキルや資格を明確にします。これにより、従業員は自分のキャリアの進路を具体的に把握し、目標設定が容易になります。
また、評価項目の設定は個々の従業員の成長と企業の目標達成のために不可欠です。①意欲・向上心、②技術・スキル、③コミュニケーション、④コンプライアンスなどの大項目に基づいて、より詳細な評価項目を設定します。これにより、従業員は自身の評価基準を理解し、自己改善のための具体的な目標を持つことができます。こうした項目は、例えばリーダーは上記の4つに、⑤リーダーシップを加えるなど、資格に合わせて設定すると良いです。
このように、従業員数が20人を超えた場合、会社の方向性を定め、職務定義、資格表、評価項目を通じて、より体系的な人事評価制度を構築する必要があります。次に、評価制度の具体的な要素について詳しく見ていきましょう。
評価制度の具体的な要素
評価制度の具体的な要素として、職務定義書の作成、昇格段階の定義と資格表、評価項目の設定とその重要性についてご紹介していきます。
職務定義書の作成
製造業に限らずですが、中小企業においては、各従業員が自分の役割と責任を正確に理解することが重要です。これを実現するためには、職務定義書の作成が不可欠であることは上述した通りです。職務定義書には、製造部門、営業部門、管理部門、総務部門など、各部門の具体的な仕事内容や役割、責任が明記されます。これにより、従業員は自分の業務範囲を正確に把握し、効率的かつ効果的に仕事を進めることができます。また、職務の明確化は目標設定や評価の正確性を高めるためにも重要です。ただし、セクショナリズムを生みやすい反面もあるので、組織的行動をするためには、定義された職務のグレーゾーンをしっかり管理コントロールすることが重要であることも追記しておきます。
昇格段階の定義と資格表
従業員のキャリアパスの明確化はモチベーション向上に寄与します。昇格段階とそれに対応する資格の定義は、従業員が自己成長の道筋を理解し、目標に向かって努力するための基盤を提供します。資格表には、ジュニアからシニア、リーダー、マネージャーへと進む各段階で必要なスキルや成果が定義されます。これにより、従業員は自身の成長とキャリアアップに向けて何を目指すべきかを具体的に把握することができます。
評価項目の設定とその重要性
効果的な人事評価制度のためには、明確かつ具体的な評価項目の設定が必要です。評価項目は、意欲・向上心、技術・スキル、コミュニケーション、協調性、コンプライアンスなどの大項目と、それらに紐づくより詳細な小項目から構成されます。これにより、従業員は自身の評価基準を理解し、自己改善のための具体的な目標を持つことが可能になります。また、評価項目は従業員の役割やキャリア段階(資格)に応じてカスタマイズされるべきで、個々の従業員に適切なフィードバックと成長機会を提供するものとなります。
このように、職務定義書の作成、昇格段階の定義と資格表、評価項目の設定は、中小製造業における効果的な人事評価制度を構築するための重要な要素です。こうした内容は、「会社がどのような将来像を描いているか」を明確にして共有する必要があるとお伝えしましたが、実は企業の経営戦略と密接に関係します。従って、人事評価制度の構築方法や資格表などの詳細な制度は標準があるわけではなく、経営戦略や経営方針から創造していく必要があるのです。つまり、人事評価制度の構築は経営理念やMVV(Mission/Vision/Value)などを明確の言語化するところから始まり、各企業がそれぞれ構築するものであり、どこかにテンプレートがあるようなものでもないため一定の時間を要します。すぐにできるものでもない点だけご理解いただければと思います。次に、評価制度の運用と改善について詳しく見ていきましょう。
製造業の評価制度の運用と改善
製造業の評価制度の運用と改善の内容として、面談の実施とその重要性、評価制度の運用方法と段階的な改善をご紹介していきます。
面談の実施とその重要性
人事評価制度ができたからと言ってそれだけではダメで、効果的に運用する必要があります。人事評価制度の効果的な運用において、定期的な面談(フィードバック面談)の実施は非常に重要です。面談は、従業員と経営者または上司との直接的なコミュニケーションの機会となり、個々の成果と目標を共有するためのプラットフォームです。面談を通じて、従業員は自分の業績を振り返り、次の期間に向けた目標を設定し、必要な支援やトレーニングについて話し合うことができます。また、面談は従業員のモチベーションを高め(モチベーションを下げないことも重要)、キャリアの進路についての意見や懸念を共有する場でもあります。
評価制度の運用方法と段階的な改善
効果的な人事評価制度は、一度設計したら終わりではありません。制度そのものを定期的に評価し改善するサイクルが必要です。製造業の中小企業においては、特に組織の成長と変化に応じて、評価制度を柔軟に調整することが重要です。評価の過程で得られたフィードバックやデータを活用し、評価基準や方法を見直すことで、より効果的な制度にしていくことができます。また、従業員からのフィードバックも積極的に取り入れ、彼らが直面する実際の現場での課題に基づいて制度を改善することが望ましいです。
このように、評価制度の運用と改善は、従業員と企業の成長を支えるために不可欠なプロセスです。定期的な面談の実施と、継続的な評価制度の見直しと改善によって、製造業の中小企業は従業員の能力を最大限に活用し、組織全体の成果を向上させることが可能になります。評価制度が成熟してくると、その評価項目はキャリアパスに沿って教育制度を整備していくことも可能になります。昨今では人材の流動性が高まっていますが、中途入社や新卒入社に関わらず、社内の教育制度の充実は採用した人材の定着に重要な要素となるでしょう。人事評価制度を活用し、こうした持続可能な企業体制へと進化していきたいものです。
運用面で1点、忘れてはならないことがあります。それは降格人事です。昇格の要件を定めているとはいえ、昇格後にやはり適性が合わない場合も出てきます。その場合は、敢然と降格人事をする必要があるのです。日本企業は降格人事を行わない傾向にありますが、その影響で業務の生産性が落ちたり、メンバーのモチベーションを下げたりしてしまっています。降格させてあげることは、マッチしていないポジションに本人を配置し続けるより良い人事であると信じて、きちんと実行しましょう。
まとめと中小製造業の未来に向けて
いかがでしたでしょうか。このブログ記事のまとめとして、製造業の未来に向けた人事評価制度の効果的な活用と、従業員と企業の成長をどのように支えるかについて改めて考えてみましょう。
人事評価制度の効果的な活用
この記事を通じて、製造業の中小企業における効果的な人事評価制度の重要性とその具体的な構築方法を見てきました。人事評価制度は、従業員のモチベーション向上、スキルアップ、そして企業の目標達成に向けた明確な道筋を示すものです。特に、従業員が少ない段階では直接的なコミュニケーションを活用し、規模が大きくなるにつれて職務定義書や資格表を用いた体系的なアプローチが求められます。
従業員と企業の成長を支える人事評価
製造業に限らず、中小企業では一人ひとりの従業員が企業の重要な財産です。適切な人事評価制度を通じて、従業員は自分の貢献と成長を認識し、より良い成果を目指して努力できる環境を整えることができます。また、企業は従業員の能力を最大限に活用し、組織全体としての競争力を高めることができます。人事評価制度の運用と改善によって、中小の製造業は変化する市場環境に柔軟に対応し、持続的な成長を遂げることができると考えています。
人事評価制度は中小製造業の未来に向けて不可欠な要素です。効果的な評価制度の構築と運用により、従業員と企業の両方が共に成長し、より明るい未来を築くことが可能になりますので、お困りの方はぜひとも弊社にご連絡ください。
一緒に人事評価制度の(再)構築や運用改善を伴走させていただき、強くしなやかな体制を築き上げていきましょう。
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