この記事では、「生産管理」の言葉の意味と具体的なカイゼン事例を紹介することで、生産管理の問題点をどのように解決できるか、生産管理システムの導入がどのようにして生産管理の質を向上させ、業務の効率化に貢献するかを解説します。
そして、現場の声を基にした実践的な改善策や、DX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使した生産管理の最適化についても触れていきます。
生産管理は製造業にとって非常に重要な部分であることは言うまでもありません。効率的な生産管理がなければ、製品の品質、コスト、納期など、顧客満足度を直接左右する要素が揺らぎます。しかし、多くの企業では「生産計画が立てられていない」「在庫管理ができていない」「工程管理がなされていない」といったさまざまな課題に直面しています。これらの問題は、生産効率の低下、コスト増加、納期遅延など、企業の収益性に直接影響を与えかねません。
生産管理に関する問題を詳細に見ると、その課題は多岐にわたりますが、それを解決することで、企業はより競争力のあるポジションに立つことが可能です。この記事が、生産管理のレベルアップを目指すすべての企業にとって、有益な情報源となれば幸いです。
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1. 生産管理における一般的な課題
繰り返しになりますが、生産管理は製造業での成功を左右する重要な要素です。しかし、多くの企業が効果的な生産管理システムの実際の運用に苦労しています。
「ウチは生産管理に問題がある!」「生産管理レベルが低くて生産性が悪い!」など、生産管理に関する相談は多くいただきますが、ここでは、一般的に生産管理の相談はどのようなものがあって、企業の業績にどのように影響するかを見ていきます。
・生産計画の不備
生産管理の問題で多いのが、生産計画が適切に立てられていないことです。生産計画の精度が不十分だと、人員配置や稼働設備などの資源の配分が適切でなくなり、結果として生産性が低下します。生産計画には、必要な材料、機械、人員の確保が含まれますが、これらが十分に確保されていない場合、生産目標を達成することは困難になります。
中でも最も多いのが、具体的な生産計画が“ない”パターンです。後述する事例でも紹介しますが、従前から人に仕事を割り当てていた中小企業では、規模の拡大や品種の拡大によって具体的な生産計画が“ない”パターンに陥っているケースがあります。
・在庫管理の問題
適切な在庫管理が行われていないと、余剰在庫や在庫不足が発生し、これが直接的な損失につながることがあります。在庫が多すぎると保管コストがかかり、少なすぎると生産が滞る原因となります。このバランスを取ることは、効率的な生産管理のカギです。
大企業においては、生産指示・生産完了実績(入庫実績)・出荷指示・出荷実績から在庫管理をすることが可能になっていますが、中小企業では必ずしもそこまでシステムが整っていないこともあります。
生産の指示は具体的ではなく納期を伝えるだけで担当者任せ、生産実績も紙伝票を集計しなければ分からない、出荷も現物を確認して出荷し、これら情報が一元管理されていない企業も多いです。
結果的に、生産数量の具体的指示ができず、在庫数量が確認できないために、出荷時に慌てて準備するなどの減少が起こり「生産管理ができていない」となるのです。
・工程管理の欠如
工程管理が不十分であると、結果的に生産プロセス全体の効率が低下します。各品物ごとの工程の設計、工程の所要時間(標準時間)の把握、工程間のスムーズな移行、生産ラインのバランスなど、細かい部分での管理をすることができず、全体の生産性に大きな影響を与えます。
細分化した工程の定義と標準時間の設定ができなければ、実績に基づいたカイゼンもできず、「現場は全体的に生産量が少なく技術レベルが低い!」「生産管理を徹底して生産させる!」といった抽象的で誤った結論に達してしまうこともあります。
・生産実績管理と人員配置の問題
工程管理とセットで考える必要がありますが、生産実績が正確に把握できていないと、改善点を見つけ出すことが難しくなります。また、適切な人員配置が行われていない場合、スキルにマッチした作業が行われず、生産性の低下を招きます。
中小企業においてありがちなのは、「人に仕事を割り当てる」方式で作業の予定を組んでしまうことです。
人が作業することで付加価値が生まれる作業工程であればそれでも良いのかもしれせんが、基本的には「設備(もしくは場所)に作業を割り当て、そこに人員配置をする」予定の立て方をしないといけないのではないかと考えています。
昔は人が作業をすることで生産していたと思いますが、生産品種も設備も増えてきた場合、人に割り当てているだけでは効率的な生産とは言えなくなるのです。
・設備の稼働率
「設備(もしくは場所)に作業を割り当て、そこに人員配置をする」考え方の延長になりますが、設備が十分に活用されていない場合には、当然全体としての生産量は大きくならず、企業の資産がムダになります。設備の稼働率を最大化することは、コスト削減と生産性向上の両方に貢献します。
そんなとき、「人に作業を割り当てる」ことをしていたのでは、人の稼働率は高い一方で設備の稼働率は低く資産をムダにしていることや、付加価値を生む設備を可能な限り稼働させるための自動化などの工夫も生まれません。
これらの課題は、多くの製造業で共通しています。次に、具体的なカイゼン事例を通じて、これらの問題をどのように解決できるか、そして生産管理システム導入がどのように役立つかを見ていきましょう。
2. カイゼン事例の紹介
ここでは、金属部品精密機械加工メーカーにおける具体的なカイゼン事例を紹介し、生産管理の課題を克服した過程を詳細に見ていきましょう。
この企業は、毎月の売上が目標に達していないという問題に直面していました。詳細に確認すると、納期遅れや生産量の不足という課題も抱えていました。不良品の多さ、作業の遅さ、技術力の不足、見積もりの問題など、多岐にわたる原因が疑われましたが、根本的な問題は生産計画が売上目標を満たすように立てられていないことにありました。
生産管理の問題であるとマクロに捉えていたため、既にIT導入補助金を活用して生産管理システムを刷新していました。
そこで、5つのステップでカイゼンを実施していこうと提案し、実際にカイゼンを実行しました。
1. 工程マスタの整備
最初のステップとして、新規で導入した生産管理システムにおける工程マスタを整備しました。取り扱い製品ごとの工程が全ての製品で定義されていなかったり、工程は定義されているけど各工程の所要時間(標準時間)の入力が不足していたりしたため、まずはこれらの情報を入力し、生産プロセスの定義をするようにしました。
この作業は、工程設計ができる社長が行わなければなりませんでしたが、忙しいことを理由に作業ができていませんでした。
つまり、社長が「生産管理ができていない」と感じる根本には、社長自身が作業を行っていなかったことが原因としてあったということです。これはITに苦手意識を感じる社長にありがちなことでもありますので、改めて留意しておきましょう。
2. 受注残リストの見える化
次に、受注残リストを作成し、これを現場で見える化しました。これまでは、注文票を一枚一枚ファイルに入れて現場に置いてあり、その注文票の中から各担当者が製品を選んで作業するようになっていましたが、注文票の一覧表を作成して、製品や納期の一覧が見えるものを別に掲示することにしたのです。これにより、納期遅れの品物が一目でわかるようになり、納期遅れをなくすための意識が現場に浸透しました。ITを活用すればこの作業は造作もないことですね。
3. 生産量目標の提示
月曜日に週1回のミーティングを設け、その場で今週の生産量目標を提示しました。先ほどの受注残リストで、納期遅れの注文は色を変えて表示し、同時に「今週は上からここまで生産してね!」というように、目標とする生産量をはっきりさせるようにしたのです。これにより、担当者は週単位での作業量を計画的に割り振ることができるようになり、売上達成に必要なボリュームの計画を立てることができるようになり、生産効率の向上を図りました。
つまり、これまでは明確な作業量の目標がなかったために、各担当者も余裕を持った作業時間になるような注文を選び、作業量自体が少なくなってしまっていたのです。
良く言えば「担当者に任せている」、悪く言えば「現場に丸投げで管理できていない」状態でしたが、ITの活用と掲示というアナログ手法の組み合わせでその状況を打破しました。
4. 実績入力の徹底
生産管理システムを最大限に活用するため、現場での実績入力を徹底しました。新しく導入した生産管理システムでは作業開始時と完了時に注文票のバーコードを読み込むことで記録することが可能でしたが、現場の従業員はその重要性を理解しておらず、バーコードを読む作業をしばしば怠っていました。従って、システムから出力した実績を分析しようとしても、結果が入力されておらず分析できない状態だったのです。実績入力の重要性を再三繰り返して伝えることで、正確な生産データの収集を可能にしました。いくらIT活用と言っても、データが入力されなければ何も始まりません。現場でのデータ入力に関しては繰り返し伝えるしかないと思っています。
5. 予実分析によるカイゼン
工程マスタの整備と実績入力の徹底により、計画と実績の比較(予実分析)が可能になりました。生産管理システムに入力されたデータを分析することで、どの製品のどの工程が予定より時間がかかっているのか、時間がかかっているのであればどのように作業をしているのか、時間を短縮する方法がないか、などの分析を通じて、特定の工程での遅延や、時間がかかりすぎる工程の改善策を検討し、実施しました。
また、場合によって担当者ごとの作業時間分析も行い、時間がかかっている作業の方法の確認とカイゼン及び標準化を進めました。
分析が容易にできるのはITの一番の特長でもありますね。
カイゼン後の成果
これらの5つのステップのカイゼンにより、売上不足、納期遅れ、生産量不足といった課題が大幅に解消されました。生産計画の精度が向上し、納期の遵守率が改善され、生産効率が高まったことで売上目標を達成することができたのです。さらに、実績データの正確な把握により、持続的なカイゼン活動が可能となり、企業の収益性と競争力の向上、従業員の技術力の向上につながりました。
このカイゼン事例は、生産管理の課題に直面している多くの製造業にとって、同様のステップを踏むことで生産性向上が可能であると考えています。IT活用だと生産管理システムを導入しただけでうまく使えていない企業は、ぜひ参考になさってみてください。
さて、次に、生産管理システムの導入がもたらした具体的な改善効果について詳しく見ていきましょう。
3. システム導入の効果
生産管理システムの導入は、多くの製造業にとって革新的なカイゼンをもたらします。ただ、実際にはそのITシステムを活用することができずに、無用の長物になってしまっているケースも多く見かけます。現代は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、生産プロセスの最適化が新たな段階に入ったと考えています。ここでは、ITシステム導入が生産管理にどのような具体的な効果をもたらしたか、そしてDXの観点から見た生産管理の最適化について掘り下げます。
金属部品精密機械加工メーカーの事例では、生産管理システムの導入により、以下のような具体的な改善効果が得られました。
生産プロセスの可視化
新たに導入された生産管理システムにより、生産プロセス全体が可視化されました。これにより、各工程の進捗状況をリアルタイムで把握できるようになり、問題が発生した際の迅速な対応が可能となりました。これができた理由は、全製品の工程や標準時間を定義し、実績入力が確実に行われるようになったためであることは改めてお伝えしておきます。
生産効率の向上
工程マスタの整備や受注残リストの見える化など、ITシステムを活用した改善策の実施により、生産効率が大幅に向上しました。具体的には、納期遅れの削減、生産量の増加、ムダな作業時間の削減が実現されました。生産管理システムを導入しただけでは生産効率の向上を実現できないことはここでも改めて押さえておきましょう。
データに基づく意思決定
実績入力の徹底により、生産に関する正確なデータが収集されるようになりました。これにより、予実分析(標準と実際の差異分析)が可能となり、どの工程からカイゼンしたら良いのか、どの製品から着手すれば良いのかなど、客観的データに基づいた効果的な意思決定が行えるようになりました。データが正しく入力されてからがIT活用の真骨頂です。
持続的なカイゼン活動
PDCAサイクル(工程定義→生産→分析→カイゼン)の確立により、問題が発生した際にはその原因を追究し、根本的な解決策を講じることができるようになりました。これにより、継続的なカイゼン活動が促進され、企業の組織的生産管理の質が持続的に向上しています。
DXの観点から見た生産管理の最適化
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、生産管理においても大きな役割を果たしています。生産管理システムの導入により、従来の手作業によるデータ収集や分析作業がデジタル化され、より高速かつ正確に行えるようになりました。これにより、生産プロセスの柔軟性が高まり、市場の変動に迅速に対応できるようになったのです。
PDCAサイクルと組み合わせると、P(計画)はデータを元にIT活用で計画立案を迅速化、D(実行)は現場で実行、C(分析・評価)はデータを元にIT活用で迅速に分析、A(カイゼン)は現場で実施、となり、カイゼンのサイクルを、デジタルデータを活用しながら効率的に進めることができるようになりました。
この点において、DXと呼んで良い事例でもあると考えています。
生産管理システムの導入は、製造業における生産管理の課題を克服し、企業の収益性と競争力を高めるための重要なステップとなります。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、生産管理のプロセスはさらに最適化され、未来の製造業を支える強固な基盤が構築されています。しかしながら、生産管理の問題解決にはITシステム導入だけでなく、プロセス全体の見直しとカイゼンが不可欠であり、これらの取り組みが企業を成功に導くカギとなるのです。
結論: 生産管理におけるシステム導入の重要性
生産管理の問題を解決するためには、システム導入だけでなく、プロセス全体の見直しとカイゼンが不可欠であることは、具体的なカイゼン事例として金属部品精密機械加工メーカーのケースを見ていただければご理解いただけるかと思います。この事例から学ぶべき点を改めて整理してみました。
システム導入の重要性
生産管理システムの導入は、生産プロセスの可視化、効率化、そして最適化を実現します。しかし、生産管理システムを導入して生産性向上を実現するためには、その準備と適応能力に大きく依存するということです。事例で見たように、工程マスタの整備や受注残リストの見える化など、システムを最大限に活用するための前準備が不可欠ですし、実績入力なども含めて現場に徹底させることが必要です。言い換えれば、そうした準備とITシステムへの適応によって、生産性向上に大きく近づくことになります。
持続的なカイゼンのためのPDCAサイクル
生産管理システム導入後も、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を活用した持続的なカイゼンが重要です。むしろ、カイゼンのPDCAサイクルを実現することを目的としてITシステムを導入しなければなりません。予実分析によるカイゼン活動は、生産管理の質を段階的に向上させ、組織の成熟度を高めます。生産管理システムは、カイゼンのPDCAサイクルを効率的に回すための強力なツールとなるのです。
プロセス全体の見直しとカイゼン
生産管理の問題解決には、システム導入に加えて、プロセス全体の見直しとカイゼンが必要です。「生産管理」と大きな単位で問題を見るのではなく、生産管理の中のどこに問題があるのかを見極めて、業務プロセスを再設計しなければなりません。ITシステムはツールに過ぎず、それを使う人々の意識やプロセス自体の質がカイゼンのカギを握ります。事例で見たように、現場の実績入力の徹底や、生産量目標の提示など、人的要素とプロセス再構築がシステム導入の効果を最大にします。
おわりに
生産管理の課題に直面している企業は多いですが、きちんとやるべきことをやる、それだけでカイゼンへの道は決して遠いものではありません。今回紹介した事例を参考に、まずは自社の生産管理プロセスを見直し、生産管理の中のどこに問題があるのかを見つけ、どのようなカイゼンが可能かを検討してみてください。
また、ITシステム導入や活用、業務プロセスの再構築に関する相談やサポートが必要な場合は、ぜひ弊社にご連絡ください。生産管理の質を高め、企業の競争力を強化するために、今日から行動を始めましょう!
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