この記事では、人に作業を割り当てている企業様に向けて、設備や場所を中心とした生産計画立案の方法とメリットを紹介します。企業が成長する過程で、小規模ながらも手作業や人への作業割り当てに頼ってきた方法では、生産性や効率の面で限界があります。いわゆる属人化です。このような背景から、生産計画の見直しが必要となりますが、具体的には、従来の人に依存した作業割り当てから、設備や場所を中心としたオペレーションへとシフトすることを推奨しています。今回は、この変革の方法と、それを成功に導くためのポイントについて掘り下げていきます。
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生産計画を見直すきっかけ
製造業にとって生産管理が重要であることは言うまでもなく、中でも生産計画の最適化は重要であると認識しているものの、多くの企業が生産計画の立案と実行に苦労しています。特に、小規模で始まり急速に成長した企業は、生産能力の上限に直面することがよくあります。これは、伝統的に人への作業割り当てに依存してきたため、作業者の能力や時間が限界に達すると、生産量を増やすことができなくなるからです。
このような状況になった場合は、「生産管理」「生産計画」「オペレーション」の見直しや改革が必要であることを示していると考えましょう。成長を続けるためには、生産計画の方法を根本から変える必要があります。具体的には、個々の作業者に作業を割り当てる属人化した作業を前提とした計画を立てるのではなく、設備や場所を中心に生産計画を立てる方法へのシフトが求められます。
この手法によって、生産能力を具体的に把握し、設備や場所の最大限の活用を計画することが可能になります。たとえば、設備や作業場所を縦軸に、時間や日付を横軸に配置した表を作成することで、どの設備で何が生産できるかを明確にすることができます。人の配置は、その後の段階で考慮する方が良いのです。結果として、生産の効率化を図っていくことが可能になりますから。
この手法への移行は、単に生産計画の方法を変えるだけでなく、作業者の多能工化や標準時間の設定など、生産管理全体の見直し、つまり変革(トランスフォーメーション)を意味します。設備や場所を最大限に活用することで、生産のボトルネックを特定し、解消することができるようになるのです。その他、複数製品で設備が重複している場合は、追加の設備導入が必要になることもあります。
このような生産計画の見直しは、企業が直面する具体的な課題を明らかにし、それに対処するための具体的な解決策を提供してくれます。設備と場所を中心にした生産計画立案法は、製造業が成長を続けるために、効率的かつ効果的なオペレーションの改善への道を示してくれるのです。
設備・場所中心の生産計画とは
生産管理の中の生産計画は、製造業の業務効率化を図り生産性を高めるための中核をなす要素で、これを効率的に行うことが競争力の源泉となります。生産計画を最適化することで、製品の品質向上、コスト削減、納期の短縮などにもつながってきます。
ここでは、設備や場所を中心にした生産計画立案法のメリットと具体的な計画立案方法について見ていきます。
設備・場所中心の生産計画のメリット
大きく3つのメリットがあると考えています。
生産能力の最大化:
設備や場所に基づいて生産計画を立てることで、それぞれの設備の稼働率を最大限に高めることを考えることができます。この考え方に基づいて改善活動を継続することで、生産能力の限界を押し上げることが可能になります。
効率的なリソース配分:
設備や場所の能力を把握し、計画に反映させることで、設備だけでなく人員などのリソースをムダなく配分することができます。結果として、納期短縮やコスト削減にもつながります。
柔軟な対応能力:
設備や場所を基準にした計画では、突発的な生産量の変更や急な納期の要求にも柔軟に対応することができます。これは、生産ラインの再配置や調整が容易になるためです。計画や作業ノウハウが属人化していた場合には、こうした柔軟な変更は困難です。
具体的な生産計画立案方法
設備や場所を中心にした生産計画を立案する際には、以下のステップが推奨されます。
設備と場所の能力評価:
まず、各設備や作業場所の生産能力を正確に把握します。これには、稼働が可能な時間、生産速度、メンテナンスの必要性などを評価することが含まれます。
生産計画のマトリクス作成:
設備や場所を縦軸に、時間(日付や時間帯)を横軸にしたマトリクス表を作成します。これにより、どの設備で、いつ、何を生産するかが視覚的にスケジュールとして把握できるようになります。
標準時間の設定:
各作業(工程)にかかる標準時間を設定し、これをマトリクスに反映させます。これにより、生産計画の精度を高めることができます。言い換えれば、各工程に必要な時間を定義できなければ生産計画を組むことはできません。
人的リソースの配置:
設備や場所に基づいた生産計画が完成した後、必要な人的リソースを配置します。この際、人員や特定の作業しかできないなどの制約によって計画の修正をする必要があるため、多能工の育成や作業の標準化が具体的な課題として浮かび上がります。
ここで紹介した設備や場所を中心にした生産計画立案法は、製造業が直面する多くのオペレーション上の課題を解決する有効な手段です。この方法を採用することで、生産性の向上、コスト削減、納期の短縮などにつながり、企業の競争力を大きく高めることができるのです。
事例紹介:金属部品加工企業の変革
ここで、生産管理の革新における重要な教訓と言う意味で、ある金属部品精密機械加工メーカーの事例を紹介します。従業員数9名のこの企業は、毎月の売上が不十分であるという問題に直面していました。
生産管理の課題
この企業は、生産計画が売上を満たすものになっていないという根本的な問題に直面していました。具体的には、各設備の担当者が自主的に注文票から作業を選択し、各自でその日の作業内容を決めていました。この方法は、良く言えば自主性に富んでいたものの、悪く言えば管理が不十分であり、納期遅れが常態化していました。また、一日や一週間の生産量としての目標も設定されておらず、結果として必要な作業量が確保できていませんでした。
解決策と変革
そこで、生産管理のレベルを向上させるために、設備に基づいた生産計画へのシフトを決定しました。具体的には、注文票を各自でピックアップするのではなく、設備基準で注文票の作業を割り振り、その後に誰がどの作業を行うのかを決めることにしたのです。まず設備に計画を割り振ることから、設備の稼働率を最大化することを考えるようになり、ボトルネックとなる工程を特定することで、生産効率の向上を図ることも行いました。このプロセスでは、設備が異常に低い稼働率を示している場合や、同じ設備が重複してリードタイムが長期化してしまう場合に、その原因を明確に見える化することができました。設備が重複している場合には、その一部の工程を外注することで、リードタイムの短縮を図るなど内部の生産プロセスをさらにスムーズに最適化する対策も見えてきました。
結果と影響
この一連の変革により、当初の売上不足の問題は解消され、目標とする売上を確保する生産量(作業量)を現場で共有してその作業を確実に行うことができるようになるとともに、生産プロセスの効率化をも実現しました。設備ベースで計画を立案すると、人員の制約が多かったことが明確になり、作業の標準化を進めることで、誰が作業を行ってもある程度一定のスピードで作業ができるようにしたのです。そうした作業員の多能工化とともに作業標準のレベルアップを図ることで、生産計画の精度がより向上していきました。この事例から、生産計画を設備や場所を中心に立案することの有効性が示されるとともに、こうした生産管理の革新が、企業の収益性向上に直結することもご理解いただき、ご参考にしていただければうれしいです。
事例紹介:食品製造企業の改善例
次の事例は、和菓子や洋菓子の製造を行っているとある食品製造企業です。生産に関わる従業員数は6~7名でした。この企業は、製品の品種が増加していく中で、生産が需要に追いつかず、売上を上げる潜在能力にもかかわらず生産量が足りないという問題に直面していました。
生産計画の見直し
従来の生産計画では、日ごとに何を生産するかを決定し、その作業は人に依存していました。誰が出勤の予定になっている、誰が何の作業を行う、という順に生産計画が立てられていましたが、これがまさに、生産性が向上しない主な原因だったのです。弊社は、この企業に対して設備や場所を基準に生産計画を立案するアプローチを採用するよう助言しました。具体的には、オーブン、作業台、包餡機や包装機などの設備や場所をベースにして、どの作業をいつ行うかをリスト化し、生産計画を細分化し、各工程に標準時間を設定することを推奨しました。
生産管理の改善施策
実際に、この企業で生産計画を立案するために行った内容は以下の通りです。
工程のマスタ整備:
それまでは特に意識することなく、仕込み、焼成、包装などの工程を漠然と扱ってきましたが、製品別に工程を明確に定義することから始めました。
標準時間の設定:
製品ごとに定義された工程に基づいて、各工程に必要な標準時間を設定しました。その際、餡の仕込みやオーブンなどのバッチ処理が必要な工程では、最低ロット数(効率のために一度に作業をするべき量)を決め、どの製品がどのくらいの時間が必要かを明確にしました。
設備や場所のリスト化:
保有している設備や作業台などがリスト化されておらず、設備的な生産能力を把握することができていなかったため、設備と場所をリスト化しました。
設備・場所基準の生産計画立案:
設備や場所を効率良く活用した生産計画はどのようなものになるのか、スケジュールを見える化しました。上述したように、縦軸に設備や場所をリスト化し、横軸に日を並べたスケジュール表を作成しました。
人員を考慮した生産計画の修正:
設備や場所基準でスケジュールを組んだ後、人員を考慮して生産スケジュールを調整して、状況に合わせて生産計画を最適化する作業を行うようにしました。
改善の効果
これらの改善策により、生産量を増やすためにはまずは人員の確保を進めること、第二にオーブンがボトルネックになっていたために容量の大きなオーブンに入れ替えることなどの課題が明確になりました。また、これまでは製品の生産工程を分解して考えることがなかったために、「この日はこれを作る」と大きな単位で決めてしまっていましたが、工程を細分化して定義することで、「次の日の仕込みだけは同時並行でできる」などのやりくりも考えられるようになり、生産能力を高めることに成功しました。さらに、作業員の多能工化を進めて、作業員の能力による制約がなるべくなくなるようにして生産量を増やすことに成功したのです。
この事例においても、設備と場所を中心にした生産計画立案法が、生産管理の課題を解決し、生産性を向上させる有効な手段であることを示しています。こうした生産計画の見直しは、企業が成長し続けるために不可欠なプロセスであり、こうした変革(トランスフォーメーション)を取り入れることで、さらなる企業の成長が期待できるのです。
生産計画最適化のポイント
改めて、生産計画最適化のポイントを見ていきましょう。設備と場所を中心にした生産計画立案法は、これまでの人中心の作業割り当て(属人化基準の計画)からの脱却を促し、生産性の向上を目指す重要な戦略となります。
1. 標準時間の設定
標準時間とは、特定の作業を完了するために必要な時間のことです。これを設定することで、各設備や場所でどれくらいの生産が可能かを把握し、計画的に作業を割り当てることができます。標準時間が正しく設定されていれば、生産計画の精度を大幅に向上させることが可能になります。この過程で、作業のばらつきを減らし、生産性および品質を一定に保つことができます。
2. 多能工化の推進
生産計画を効率化するには、作業者の多能工化も重要です。設備や場所に基づいて計画を立てることで、人の能力の制約を超え、生産性を高めることができます。たとえば、特定の作業に特化した人材ではなく、複数の作業をこなせる人材を育成することで、柔軟な生産体制を確立できます。
3. 工程の細分化と標準化
生産計画を設備や場所を中心に立案する際は、生産プロセスを細分化し、それぞれに標準時間を設定することが重要です。これにより、どの設備で、どの日に、どの作業を行うかを明確にすることができます。細分化された工程に標準時間を割り当てることで、生産スケジュールの精度を向上させ、ムダなくリソースを配分することが可能になります。
これらのポイントを下地として整備した上で、設備や場所をベースにした生産計画手法にシフトすることで、製造業は生産性の向上、コスト削減、納期の短縮といった多くの利点を享受できます。
まとめ
生産管理の革新として、設備と場所を中心にした生産計画立案法は、これまで人を基準に生産計画を立てていた製造業において、生産性を大幅に向上させる可能性があります。漠然と「生産管理」の問題と考えていた生産性が芳しくない現状を打破したり、生産計画をもっと効率良く立てたい、オペレーションの効率を上げたいと考えていた状況をブレイクスルーしたり、実際の生産現場での問題解決に寄与します。
生産計画の見直しの重要性
この記事の中で紹介した金属部品加工企業や食品製造企業の事例は、生産計画を見直すことの重要性を浮き彫りにしました。これらの企業は、人への作業割り当てから設備や場所への割り当てへとシフトすることで、生産効率を大幅に改善しました。生産計画の見直しは、単に生産性を向上させるだけでなく、企業の競争力を高め、市場での成功を確実なものにします。この背景には、これまでの属人化ベースの生産計画から変革(トランスフォーメーション)した決断と実行力があることも忘れてはいけません。
もし、今現在で人を基準にした生産計画を運用していて生産能力の向上に課題があると感じている場合には、生産計画を見直し、設備と場所を中心にした計画立案を試してみましょう。そして、具体的に自社にとって、設備や場所ベースの生産計画立案をどのように進めて良いか分からに場合には遠慮なくご連絡ください。一緒に生産計画を最適化する方法を考え、新たなステージへ進みましょう!
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