製造業でコンサルタントが活用するプロジェクトマネジメント

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製造業でコンサルタントが活用するプロジェクトマネジメント

プロジェクト

これをお読みの方は、“プロジェクトマネジメント”をご存じでしょうか?

恥ずかしながら、私は製造業に勤務していた10年間でこの言葉には一切触れたことはなかったし、その後、なんちゃって製造業コンサルを始めて数年は全く知りませんでした。

きっかけは、中途で入社してきたSEの人が、この“プロジェクトマネジメント”の資格を持っていると知ったことでした。

なんでも、ITシステムの開発は7割が失敗すると言われている中、SEにとってプロジェクトマネジメントの活用はプロジェクトの成否のカギになるとのことで、当時、自分の価値を高めようと躍起になっていた自分は、勉強してみようと思ったものでした。

(結果的にはITの知識も全く足りず、歯が立たないと思って断念しました。)

ただ、その後も製造業向けのコンサルタントとして奔走している中で、IT業界で使用されている“ITIL”などのその他の手法を知り、製造業におけるプロジェクトでもIT業界のプロジェクト遂行に関する考え方は応用できるし、むしろそういった体系的な考え方を取り入れた方が良いのではないかと考えるようになりました。

さて、今回は、そんな“プロジェクトマネジメント”(以後、PM)について、製造業でも活用するべき考え方を紹介していきます。

尚、ここで紹介する内容は、PMの資格を取ってほしいというわけではないので、ごく簡単な内容だけ紹介させていただいています。

本格的なPMを知りたい方は、“PMBOK(Project Management Body of Knowledge)”などを勉強されると良いと思います。

なんでプロジェクトが失敗するか

これをお読みのみなさまであれば、「なんでプロジェクトが失敗するか」その理由についていくつも思い当たる理由があるのではないでしょうか?

当然、答えは一つではなく、その場や状況、時代背景、人間関係など多岐にわたります。

この後、具体的な手法を紹介していきますが、その前に、「なんでプロジェクトが失敗するのか」を頭に置きながら読んでいただくと得られる学びが大きくなると思います。

ちなみに、この後紹介していく項目は、『プロジェクト憲章』を作成するポイントにもなっているものです。

私は、ここで紹介している項目を押さえておけば、劇的にプロジェクトの質が上がる企業が多いのではないかと思っていますが、物足りない方はプロジェクト憲章作成方法などをしっかり勉強されると良いと思います。

それでは参りましょう!!

STEP0:PMの概要

PMでは、5つのフェーズに分けてそれぞれのフェーズで重要な要素を体系的にまとめています。

その5つのフェーズとは、以下の通りです。

1.立ち上げ

2.計画

3.実行

4.管理

5.終結

私が特に重要視するのは、最初の1.立ち上げと、2.計画です。

この部分について、過去に私自身が商品開発で携わってきた経験や、コンサルタントとして携わらせていただいたお客さまのプロジェクトの経験を基に、6つのステップで紹介していきます。

STEP1:テーマを決める

テーマを決める

「名は体を表す」じゃないですが、プロジェクトのテーマ名は非常に重要です。

センスのない、というより、何をするのか具体的に分からないテーマ名のせいで、後々混乱してうまくいかなくなるテーマもあるくらいです。

例えばこれはどうでしょう。

「新規大型MC導入の検討」

ちなみに、これは悪い例です。

どの辺りがダメなのか分かりますか?

そう!!

明確な終わりが分からないのです!!

「検討って何をどこまで検討すること?」

「検討だけすればいいの?」

みたいなツッコミが聞かれそうです。

テーマ名を決めるときは、バシッと

・何を

・どうする

が具体的に分かる表現をしなくてはなりません。

先ほどの例であれば、

「新規大型MC導入の投資価値判断」

「新規大型MC導入計画の作成」

「新規大型MC導入による〇〇製品の商品化」

など、分かりやすくしてあげると良いですね!

STEP2:背景/目的を明文化する

このタイトルだけ見ると、簡単そうで当たり前のように思えるかもしれません。

ところがどっこい、これが意外と難しいのです。

先ほどのテーマ「新規大型MCの導入」で考えてみましょう。

背景や目的には、顧客からの大型部品に対する需要があるかもしれませんし、自社の停滞する業績を打破するための研究開発的な要素があるかもしれませんし、今は自社でできないからやってみるといったノリかもしれませんし、設備老朽化のための入替なんかがあるのかもしれません。

ここで重要なポイントは『明文化する』ことです。

言い換えれば、みんながみて同じ認識ができる文として書く必要があるということです。

技術的なプロジェクトを遂行する際には、やはり技術者がプロジェクトマネージャー/プロジェクトリーダーを務めることが多いと思います。

こうした技術者というのは、得てして言語化が得意でないケースも多いです。

「みんな分かるだろう」

「当然そう思っているだろう」

自分の中の常識にとらわれて表現を怠りがちなんです。

プロジェクトオーナー(プロジェクトを立ち上げ任命した人)の方は、その点を広い視野で良く見てあげてください。

言い換えると、背景/目的を明文化できないプロジェクトマネージャーは、そのプロジェクトの目的を理解していないことになるため、そう遠くない将来、必ず挫折します。

面倒なことかもしれませんが、ここのプロセスを怠らないでくださいね!

STEP3:目標(ゴール)を決める

これもまた当たり前のようなんですが、けっこう抜けがちです。

こんな経験ありませんか?

「いつまで経っても終わらない」

「終わりがどこか分からずにやることはまだあるから延長」

「プロジェクトオーナーはいつ終わりにしてくれるのか」

笑いごとではなく、頭の中に漠然と浮かんできて立ち上げたプロジェクトに関しては、この危険性が極めて高いです。

したがって、プロジェクトを始める前に、しっかりをそのプロジェクトの“終わり”を決める必要があるんです。

この“終わり”の設定の仕方には“SMART”と言われるポイントがあります。

S・・・Specific(具体的に)

M・・・Measurable(測定可能な)

A・・・Achievable(達成可能な)

R・・・Related(経営戦略と関係のある)

T・・・Time(時間制約がある)

これも先ほどの「新規大型MCの導入」で例えると、

「新しく大型のMCを導入する」

は全然ダメな例です。

「事業拡大のための新規大型MCを〇年〇月に導入し、1品種の生産を開始する」

こんな感じですね。

“SMART”忘れないでください!!

STEP4:マイルストーンを決める

出ました!コンサル用語で良く使う用語「マイルストーン」!

簡単に言うと、中間目標ですね。

例えば、来年3月までに目標達成をしたいのであれば、今年の12月時点ではどうなっていないといけないか、9月ではどうなっていないといけないか、という具合に、目標達成までの間に、目安となる目標をいくつか設定することです。

このマイルストーンを置くことで、それまでの間に具体的にどんなことをしなくてはいけないかが見えてくるようになります。

少し遠い目標だけを掲げても、目の前の作業として何が必要になるのかが分からないまま、結局手付かずのミイラプロジェクトもたくさん見てきました。

いずれも、マイルストーンの設定が適切でない、もしくはないパターンでした。

これも先ほどの「新規大型MCの導入」で例えてみると、

〇〇年12月 生産開始

〇〇年10月 設備据え付け

〇〇年8月 設備決定・発注

〇〇年6月 稟議書提出

大雑把ではありますが、こんな感じです。

余裕がある方は、月ごとのマイルストーンを設定できると良いですね!そうすることで、よりその後の具体的計画作成がしやすくなります。

STEP5:ステークホルダーを特定する

またまた出ました!コンサル用語で良く出てくる「ステークホルダー」!

人によっては、「株主」をイメージする方も多いかもしれませんが、ここでいうステークホルダーとは、「利害関係者」のことです。

このステークホルダーには、一次ステークホルダー、二次ステークホルダーの2種類のステークホルダーがいます。

一次ステークホルダーは直接的にプロジェクトの影響がある人です。

例えば、オーナーである部長やその上司である役員、他部署の協力者やその部署の上司などです。

二次ステークホルダーは、間接的にプロジェクトの影響がある人たちです。

例えば、採算計算をしてくれる経理部門や顧客や株主、家族や友人なんかも入るかもしれません。

こういったステークホルダーを予めリストアップしておき、プロジェクトメンバーに認識を共有してある必要があります。

なぜなら、そのプロジェクトに対するアドバイスや要求は常に意識する必要がありますし、ときには、そんなアドバイス(口出し)や要求(横槍)をしてくる可能性のある人に対しては、根回しをしっかりしておきながらコンフリクト(衝突)を避け、計画通りにプロジェクトを進める必要がありからです。

こんな経験ありませんか?

「プロジェクトが進んでいると思ったら、突然横から偉い人が口出ししてきて手戻りが発生した。」

「突然関係ないと思っていた人が横槍を入れてきて計画通りに進まなかった。」

これは、予めステークホルダーを決めてくことを怠っていたときにおこるパターンです。

予め決めていたなら、言われることは想定できたでしょうし、もしステークホルダーに挙げられていないのであれば、大きく計画を変えるほど相手にする必要はないのです。

関係者が誰なのか、認識を共有しておくことは非常に大切なので、こちらも書き出しておくと良いでしょう!

STEP6:制約条件/前提条件を明確にする

制約条件

計画段階、いよいよ仕上げも近づいてきました。

いきなりですが、こんな経験ありませんか?

「予算がもうないからそのテストはできない」

「お客さまがそろそろ製品くれと言っている」

「メンバーが人事異動でこのプロジェクトに関われなくなった」

これらが理由でプロジェクトが大きく遅れたり、下手すると頓挫して中止になってしまったり。。

これは、プロジェクト開始時に“制約条件”や“前提条件”の確認不足が原因でもあります。

このプロジェクトに利用できる経営資源、いわゆる「ヒト」「モノ」「カネ」はどのくらい使えるのか、または、QCD(Quality, Cost, Delivery)はどのように求められているのか、時間的制約があるのか、それはいつなのか、場所はあるのかないのかetc…

プロジェクトを遂行する上で関係のある、あらゆる条件を確認し、もしくはオーナーにそれらを要求し、プロジェクトには何がどのくらい使えて何か条件があるのかを明確にしておく必要があります。

これを明確にしておき、尚且つ、メンバーやオーナー、ステークホルダーと共有しておくことはプロジェクトの成否を大きく左右します。

ありがちなのは、プロジェクトの遂行だけを言われて、制約条件等はオーナーが全て握ったまま、ひどいときには、オーナーですら把握しておらず、社長の心の中にあるだけ、なんてこともあったり、そもそも社長すら具体的に決めていなかったり。

これは会社を上げてのプロジェクトとは呼びませんね。

ここからが本当のポイント

さて、STEP1~6まで順を追って説明してきましたが、大きなポイントがあります。

それは、これらSTEP1~6を明確化していくにあたっては、プロジェクトオーナーや、時にはその上司でもある役員や社長も交えてよく摺り合わせてほしいのです。

なぜなら、プロジェクトマネージャーだけでは決められないことも多かったり、プロジェクト自体が企業戦略とも関連性を持つものであり、経営層の考えも必ずリンクするからです。

こうした擦り合わせの作業を通じて、プロジェクトが単なる思い付きのものではなく、会社として今後の戦略上必要な真のプロジェクトとして立ち上がっていき、全社的に周知されるに至るのです。

私がこれまでに教えてきたお客さまは、例外なくそうなんですが、実はプロジェクトを立ち上げてお願いしたオーナーも、ゴールのイメージが明確でなかったり、スコープ(対象範囲)が曖昧だったりして、質問されてもその場で具体的に答えられないことが大半です。

これは、プロジェクトマネージャーの教育ももちろんなんですが、それだけでなく、プロジェクトオーナーや経営層の覚悟を問う意味でも非常に重要なプロセスです。

計画をしっかり立てたからと言ってプロジェクトがうまくいくとは限りませんが、少なくとも、失敗する確率を下げます。

ここで紹介したプロセスをぜひ時間をかけてやってみてください。

目安としては2~3ヶ月程度の時間をかけてプロジェクト憲章を作成すると良いでしょう。

大事なことなので繰り返しますが、プロジェクト憲章として「明文化」することが大切です。

誰が読んでも同じイメージをする表現に工夫を凝らして言葉に気を使って作成する。

1人で考えるのではなく、3人程度で考えるのがベストです。

多すぎると決まりませんからね。。

プロジェクトの計画段階では、この後具体的なタスク分解やWBSなどがありますが、そちらはまた追々アップデートしていきたいと思います!


著者

大原 健佑

出身:長野県長野市 最終学歴:東北大学 工学部 金属工学科 卒
保有資格:中小企業診断士・QMS審査員補/2015 (JRCA登録番号:A22594)(ISO9001審査員資格) ・QC(品質管理)検定1級 ・フォークリフト ・床上操作式クレーン ・玉掛け

ものづくり企業の生産性向上と人財育成を促進する専門家。
「現場が自ら動く!」「現場に任せる!」「業務改善を圧倒的に加速させる!」「技術開発を確実に進める!」をベースに、各ものづくり企業の業務改善プロジェクトに参画し、プロデュースを行っている。