近年、製造業に限らず多くの業界で深刻な人材不足に直面しています。日本国内では少子高齢化が進行し、労働人口の減少が顕著となっていることもその背景にありますが、特に若者を中心に製造業への関心が薄れている現状は深刻です。
この記事では、製造業が直面する人材確保の問題を克服し、未来を見据えた持続可能な成長を実現するためには、どのような対策が必要なのか、製造業における人材確保の現状と課題を整理し、具体的な解決の方向性として以下の3つのアプローチを紹介します。
>>人が育つ!離職しない!中小製造業の人事評価制度を作成する4つのポイント
と合わせてご覧いただけると、人材育成も年と現実的な施策の両面を押さえることができます。
目次
製造業の人材確保の現状と課題
日本の製造業は、長年にわたり国内経済の柱としての役割を果たしてきました。しかしながら、現代の労働市場では、特に、新卒採用の減少や中途採用の難しさが顕著となっており、これは製造業にとって深刻な問題と言えます。まず、製造業の人材確保に関する現状と課題について詳しく見ていきましょう。
1. 新卒採用の減少
製造業はかつて、新卒者にとって安定したキャリアパスとして非常に人気がありました。しかし、近年では若者が製造業を避ける傾向が強まっています。その背景には、長時間労働や肉体労働のイメージが影響しています。デジタルネイティブ世代は、オフィスワークやIT関連の仕事に魅力を感じることが多いようです。さらに、ITやサービス業に比べて製造業の初任給や昇給率が低いことも、新卒者が製造業を敬遠する一因となっています。
2. 中途採用の難しさ
新卒採用だけでなく、中途採用も製造業にとって大きな課題です。経験豊富な人材は他業界でも高く評価され、高待遇の業界に流出するケースが多く見られます。また、製造業が求める専門技術と、転職市場に出回るスキルセットが一致しないことも多く、これが採用の障害となっています。さらに、製造業特有の職場文化に馴染めず、他業界からの中途採用者が定着しないことも問題です。
3. 他業界の魅力と製造業の魅力不足
IT業界やサービス業界の急成長に伴い、これらの業界が提供する柔軟な働き方や高い給与、クリエイティブな仕事環境が若者にとって魅力的に映っています。一方、製造業はその魅力をうまく発信できていない企業が多いです。高度な技術ややりがいのある仕事が多いにもかかわらず、デジタルマーケティングの活用が遅れており、若者へのアピールが不足しています。
4. 労働環境の課題
製造業の労働環境には、改善すべき点が多くあります。納期の厳守や生産ラインの維持のために長時間労働が常態化しており、これが従業員の負担となって離職率を高めています。また、安全管理が徹底されていない場合、労働災害のリスクが高くなります。安心して働ける職場環境を提供できないことが、人材の定着を妨げています。さらに、キャリアパスが不明確で、特に技術職から管理職への昇進の道が不透明だと、若者のモチベーションが低下します。
製造業の人材育成の課題
製造業の現場では、人材育成も大きな課題となっています。優秀な人材を採用しても、適切な育成が行われなければ、その人材は十分に力を発揮できません。現場が忙しく、育成に割く時間が限られていることが一因です。特に中小企業や人員が少ない現場では、新人の育成が後回しになりがちです。
また、指導者側の育成スキルも重要です。しかし、体系的な教育方法や効果的な指導技術が不足していることが多く、指導の質にばらつきがあります。正式な教育プログラムや研修制度が整備されていない企業が多く、OJT(On-the-Job Training)に頼ることが多いです。さらに、教育の効果を定量的に評価する基準が整備されていないため、育成の進捗を把握しにくく、改善点が不明確になることがあります。
これらの課題を解決するためには、いくつかのアプローチが考えられます。まず、育成時間の確保です。生産計画に育成時間を組み込み、計画的な新人教育を実施することが重要です。次に、指導スキルの向上です。ベテラン社員や管理職への指導スキル研修を行い、教育方法を改善することが必要です。また、教育プログラムの整備も重要です。体系的な教育プログラムを整備し、新人が段階的にスキルを習得できる環境を整えることが求められます。最後に、効果測定の導入です。教育の効果を定量的に測定し、育成の進捗を把握して改善点を明確にすることが必要です。
人材育成の課題にばかり着目しない
しかしながらそういったことができないことが現状でしょう。
弊社は、人材の問題を解決するために、ただ人に注目するだけでは不十分だと考えています。たとえば、コミュニケーションに課題があるとして、傾聴や目標設定などのソフトスキルの研修を設けたり人事的施策を講じたりしても、本人に学ぶ意思がなければ意味がありませんし、そうした意思に関して言えば、他人を完全にコントロールすることはできません。そのうち、従業員各個人の性格や世代の問題に言及するうちに、解決の糸口が見つからなくなることもあります。
「どうやったら従業員を育成できるか」ばかりを考えるのも限界があります。「自主的に勉強してほしい」「前向きに仕事をしてほしい」「もっと成長意欲を持ってほしい」といった期待は、経営者側の過剰な期待であり、相手の人生に対する問題でもあります。こうした期待に応えてくれないと、期待する側としてはストレスが溜まるだけです。
それよりも、「従業員に具体的に何をしてもらいたいか」「経営をより良くするために何をすべきか」を明確にすることが重要です。これにより、従業員に具体的な行動指針を示すことができ、経営者としての役割を果たすことができます。
それでは、これまでに弊社が支援してきた中で活動が活発になった事例を踏まえ、どのように視点を転換したのか、解決のヒントとして現実的で実現可能な3つのアプローチをご紹介します。
人材の課題の解決策①:働きやすい職場づくりと自動化
製造業における人材確保の課題を解決するための一つのアプローチとして、「働きやすい職場づくり」と「自動化」の推進が挙げられます。これにより、従業員の負担を軽減し、職場の魅力を高めることができ、結果的に人材が定着しやすい職場を作ることができます。以下に、具体的な取り組みとそのメリットについて詳しく解説します。
1. 作業改善と単純作業への置き換え
働きやすい職場を実現するためには、まず現場の作業改善が必要です。特に、単純作業を見直し、自動化できる部分を機械に置き換えていくことが重要です。
現場の作業プロセスを詳細に分析し、ムダな動作や重複した作業を排除することで、作業効率が向上し、従業員の負担が軽減されます。さらに、単純で反復的な作業は自動化技術を活用して機械に任せることにより、従業員がより創造的で高度な業務に集中できるようになります。これにより、作業の正確性と効率も向上します。ここで言う機械とは、数千万円も明かるような大型のものでなくても良いです。ちょっとした作業をラクにする数万円で製作できる道具でも良いですし、自前で製作できる治具でも良いです。
作業プロセスの詳細な分析については、こちらの記事を参考にしてください。
>>製造業の生産管理の問題をあぶり出す~業務プロセス図の描き方の基礎~
2. 自動化の進展とそのメリット
昨今のセンシング技術やロボット技術の発展によって、自動化技術の導入による多くのメリットが期待されています。
第一に生産性の向上が挙げられます。自動化によって作業のスピードと精度が大幅に向上し、生産ラインの稼働率が上がることで全体の生産量が増加します。また、コスト削減にも大きな効果があります。自動化されたシステムは、労働コスト(人的コスト)の削減に寄与し、機械が長時間稼働や高負荷作業を安定して行うため、人間の手を必要としなくなります。
さらに、自動化によって品質の向上も実現できます。機械による作業は一貫性が高く、人為的なミスが減少するため、製品の品質のばらつきがなくなり、不良品の発生率が低下します。最後に、従業員の負担軽減というメリットもあります。重労働や危険作業を機械が代行することで、従業員の身体的・精神的負担が軽減され、労働環境が改善されます。これにより、従業員のモチベーションや定着率も向上します。
自動車部品製造工場の作業効率化と人材確保の成功例
ある自動車部品製造工場では、部品の組み立て作業に多くの時間と労力がかかり、特に反復的な組み立て作業が従業員に大きな精神的負担を強いていました。その結果、離職率も高くなってしまっていました。この問題を解決するために、この工場では組み立てラインにロボットアームを導入し、作業の一部の自動化を進めました。ロボットが部品を正確かつ迅速に動かすことで、人間の作業負担が大幅に減少しました。
このロボットの導入により、組み立て作業の効率が大幅に向上し、組み立てに係る時間ベースで生産性が30%アップしました。結果として、作業環境が改善され、組み立て作業に従事する従業員の離職率が低下し、新たな人材の採用にも以前より苦労することがなくなっています。
人材の課題の解決策②:経営課題への着目
製造業における人材育成の課題を解決するためのもう一つのアプローチは、上述した通り人材育成だけに注目せず、経営課題に着目することです。経営課題を見据えた改善を進めることで、人材育成に過度に依存せずに生産性向上と人材確保の両方を達成することができます。以下に、具体的な取り組みとそのメリットについて詳しく解説します。
1. 経営課題の特定と優先順位付け
まず、経営課題を明確にし、それらに優先順位を付けることが重要です。これにより、組織全体の目標に基づいた戦略的な改善が可能になります。
経営課題を特定するためには、外部環境の変化を認識し、自社の強みや弱みを客観的に理解した上で、これから向かう方向性を決める必要があります。このプロセスには、現場の観察や従業員との対話、データ分析が含まれます。ブランディング、自社商品開発、技術開発、展示会への出展、などなど、あらゆる方向性が考えられますが、一度にすべての課題を解決することは難しいため、影響の大きさや緊急性に基づいて優先順位を付けることが求められます。
2. プロジェクトの立案と実行
経営課題が特定されたら、それに基づいたプロジェクトを立案し、実行します。例として、特に製品開発プロセスの見直しに焦点を当てて取り組むことを想定してみます。
まず、製品開発プロセスを詳細に分析し、ムダな手順やボトルネックを排除することが重要です。こうした考察をしながら、新たな製品開発プロセスを構築することにより、全体の効率が向上します。次に、プロセスの改革を実行するためのプロジェクトを計画し、段階的にタスクを実行します。
製品開発プロセスの改革については、こちらの記事も参考にしてみてください。
>>設計・開発領域でムダを見つける製造業コンサルタントの視点
また、プロジェクトマネジメントに関しては、以下の記事も参考になさってください。
3. 人材育成の一環としての経営課題解決
経営課題の解決プロジェクトを通じて、人材育成を同時に進めることができます。これにより、現場の従業員に実践的なスキルを身につける機会を提供できます。
プロジェクトに従業員を参加させることで、実践的なトレーニングの場が提供され、理論だけでなく実際の業務での問題解決スキルも習得できます。また、経営課題の解決にはチームでの協力が不可欠なため、プロジェクトを通じてチームワークやコミュニケーションスキルを強化することもできます。
また、経営課題に着目することで、短期的な成果だけでなく、長期的な効果も期待できます。
経営課題を解決することで持続的な成長が可能になります。たとえば、プロセスの改善やコスト削減が進むことで、長期的な競争力が強化されます。また、経営課題の解決に従業員が参加することで、会社へのエンゲージメントが向上します。従業員が自身の成長を実感し、会社の成功に貢献する意識が高まるのです。
経営課題を解決しながら人材育成もできる。これが理想的な取組なのではないでしょうか。
4. 機械部品メーカーの製品開発プロセス見直しの事例
ここでは、製品開発プロセスの見直しによって生産性向上を達成した具体的な事例を紹介します。
ある機械部品メーカーでは、製品開発プロセスが複雑で、承認やチェックなど多くの手順が重複していました。このため、開発期間が長くなり、開発コストも増加していました。そこで、経営陣は製品開発プロセスの見直しを決定しました。
まず、全体のプロセスを可視化し、各手順の効率を評価しました。その結果、いくつかのムダな手順が発見され、これらを削減することにしました。また、開発チームのコミュニケーションを改善し、情報共有のスピードを上げるためにデジタルツールを導入しました。
この見直しの結果、製品開発の期間が20%短縮され、コストも15%削減されました。さらに、開発チームの連携が強化され、品質の向上にも繋がりました。この結果、会社全体の生産性が向上し、競争力が強化された事例があります。
実際の業務改善の進め方については、こちらの記事も参考にしてみてください。
人材の課題の解決策③:5Sの徹底
製造業における人材確保と定着率の向上には、職場環境の改善が不可欠です。そのための有効な手法の一つが「5S活動」です。5S活動は、職場の整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つの要素からなる改善活動で、職場の効率と安全性を高め、従業員のモチベーションを向上させる効果があります。ここでは、5S活動の具体的な内容とその効果について詳しく説明します。
5Sの実際の取組については、こちらの記事も参考になりますので、ぜひご覧ください。
2. 5S活動の徹底による職場環境の改善
徹底された5S活動により、職場環境が大幅に改善されることには多くの具体的な効果があります。
まず、整理と整頓により、必要な工具や部品をすぐに見つけることが可能となり、作業効率が向上します。これは時間のムダを減らし、生産性の向上に直結します。また、清掃と清潔を保つことで職場が常に綺麗に保たれ、危険箇所が早期に発見されやすくなります。これによって、事故やケガの予防が可能になり、安全性が大きく向上します。
さらに、定期的な清掃活動を通じて機械や設備の異常を早期に発見できるため、故障の予防やメンテナンスが容易になります。これは設備の保全にも寄与します。
最後に、整理された職場は働きやすく、清潔な環境は従業員の健康にも良い影響を与えます。これが最も重要な点です。これにより、従業員のモチベーションが向上し、仕事に対する満足度が高まることで、全体的な職場の雰囲気が向上します。
5Sの効果については、即効性が無かったり利益に直結していることが実感しにくかったりするためモチベーションが保ちにくいことが良く言われます。しかしながら、5Sの効果として最も大きいのは人材確保です。新規採用はもちろんのこと、定着率にも大きく寄与することをご理解いただければと思います。
3. 電子部品製造工場の5S活動による職場環境改善の成功例
以下に、5S活動を徹底することで職場環境が改善された具体的な事例を紹介します。
ある電子部品製造工場では、作業現場が雑然としており、工具や部品が散乱していました。これにより、作業効率が低下し、事故も頻発していました。そこで、この工場では5S活動を徹底することを決定しました。
まず、不要なものを整理し、必要なものを整頓しました。その後、定期的な清掃活動を行い、職場を清潔に保つための標準作業手順を策定しました。さらに、5S活動を従業員全員に徹底し、定期的なトレーニングを実施しました。
その結果、職場は驚くほど整理整頓され、作業効率が大幅に向上しました。事故の発生率も大幅に減少し、従業員の安全が確保されました。また、職場環境の改善により従業員のモチベーションが向上し、離職率が低下しました。この結果、新しい人材の採用もスムーズに行えるようになりました。
5Sの取り組み事例については、こちらも参考にしてみてください。
おわりに
労働人口が減少する現代において、製造業が持続的に発展していくためには、従来の方法や概念にとらわれない人材確保戦略が求められます。この記事で紹介した以下のような取り組みが、製造業の未来を支えるカギとなるでしょう。
①作業改善と自動化
②経営課題への着目
③5Sの徹底
これらのアプローチを継続的に実施することで、製造業の競争力を維持・向上させることが可能です。しかし、これらの取り組みを効果的に進めるには、専門的な知識と経験に加えて、第三者の目線が必要です。
弊社では、「経営と現場をつなぐ」をコンセプトとした製造業向けの経営コンサルティングおよびエンジニアリングコンサルティングを通じて、お客様の課題解決をサポートしています。作業改善や自動化の導入、経営課題の解決、5S活動の徹底など、さまざまな取り組みを支援し、貴社の競争力強化をお手伝いいたします。
ぜひ、私たちの専門知識と経験を活用し、貴社の持続的な発展に向けたパートナーとしてご相談いただけたら幸いです。
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