製造業の経営者の方と話をしていると、
「現場はかなり忙しいんです」
「新しい仕事の相談をもらっても、すぐには入れられません」
「人が足りないくらいです」
という話を聞くことがあります。
これだけを聞くと、
「それだけ仕事があるなら、売上も順調なのでは?」
と思います。
ところが、実際に数字を見てみると、
現場は忙しいのに、思ったほど売上が上がっていない。
そんなケースがあります。
これは少し不思議な状態です。
もちろん、製造業には月ごとの売上の波があります。
大型案件の売上計上時期がずれることもありますし、設備や人員の状況によって生産量が変わることもあります。
しかし、
「忙しいのに売上が足りない」という状態が続いているのであれば、単純に仕事量だけを見るのではなく、その中身を確認した方がよいと思います。
私は、このような場合にはまず次の3つを確認します。
- 値付けは適正か
- 本来出せる生産性が出ているか
- 売上になっていない拘束時間がないか
順番に見ていきます。
1.その仕事、本当に適正な価格で受けていますか?
まず確認したいのが「値付け」です。
例えば、ある仕事に100時間かかって100万円の売上になる会社と、同じ100時間で150万円の売上になる会社があったとします。
同じ100時間ですから、現場の忙しさだけを見れば大きな違いはないかもしれません。
しかし、当然ながら会社の売上は大きく違います。
製造現場では、
「仕事がたくさんある」
「予定がびっしり埋まっている」
という状態を見ると、会社が順調に動いているように感じます。
しかし経営として重要なのは、
その時間が、いくらの売上や利益に変わっているのか
です。
特に中小製造業では、
- 昔からの価格をそのまま使っている
- 人件費が上がっても加工賃を見直していない
- 見積もったときより実際の工数が増えている
- 値引きを求められると、自社の利益部分を削って対応している
といったことが起こります。
これでは、仕事が増えれば増えるほど現場は忙しくなりますが、その割には利益が残りません。
重要なのは、単に「値上げするかどうか」ではなく、
現在の材料費、人件費、作業時間、外注費などを踏まえたときに、その価格で本当に採算が取れているのか
を確認することです。
特に労務費や加工賃については、単に「人件費が上がったから値上げする」のではなく、標準作業時間や改善実績と合わせて考える必要があります。

「忙しいのに売上が上がらない」と感じたら、受注量を増やす前に、まず今ある仕事の価格を確認してみることが必要です。
2.「忙しい」と「生産性が高い」は違う
次に確認したいのが生産性です。
現場へ行くと、全員が作業をしている。
予定も埋まっている。
場合によっては残業もしている。
これだけを見ると、
「これ以上はできない」
と思ってしまいます。
しかし、
忙しいことと、生産性が高いことは同じではありません。
例えば、ある製品について、
見積もりでは10時間で製作できると考えていたのに、実際には15時間かかっていたとします。
現場は15時間ずっと作業をしていますから、確かに忙しいです。
しかし、本来10時間で終わると考えていた仕事に15時間かかっているのであれば、まずその差を確認する必要があります。
ここで大切なのは、
「15時間もかかっている。現場が悪い」
と考えることではありません。
そもそも見積工数が間違っていたのかもしれません。
想定していなかった作業が増えているのかもしれません。
段取りや手直しが多いのかもしれません。
設備や作業方法に改善余地があるのかもしれません。
したがって、日報や実績管理で知りたいのは、
「今日は何時間働いたか」
だけではありません。
見積もりや標準で想定していた工数と、実際にかかった工数にどのくらい差があるのか
を見ることが重要です。
例えば、最初はこの程度でも構いません。
| 製品 | 標準・見積工数 | 実績工数 | 差 |
|---|---|---|---|
| A製品 | 10時間 | 12時間 | +2時間 |
| B製品 | 20時間 | 19時間 | ▲1時間 |
| C製品 | 8時間 | 13時間 | +5時間 |
これを続けていくと、
「この製品はいつも見積もりより時間がかかる」
「この工程で予定との差が大きくなる」
「段取り時間を見積もりに十分入れていなかった」
といったことが見えてきます。
すると、
- 生産性の問題なのか
- 見積もりの問題なのか
- 標準時間の設定の問題なのか
- 価格の問題なのか
を分けて考えられるようになります。
この「標準を決めて、実績との差を見る」という考え方は、原価管理や工程管理の基本でもあります。

原価管理というと、細かな数字を大量に集計するイメージを持たれるかもしれません。
しかし、中小製造業では、最初から完璧な原価計算をしようとする必要はないと私は考えています。
まずは、
「予定していた時間」と「実際にかかった時間」が分かる状態にする。
それだけでも、見えてくるものはかなりあります。
3.一番見えにくい「売上になっていない拘束時間」
そして、もう一つ見落としやすいのが、
売上になっていないのに、会社の時間だけが拘束されている状態
です。
例えば、こんなことはないでしょうか。
製作予定を組んだ。
人員も空けた。
材料も準備した。
ところが、
「図面の一部がまだ決まっていない」
「仕様についてお客様から回答が来ない」
という理由で作業を始められない。
仕方がないので、できるところだけ進める。
あるいは、いったん別の仕事を入れる。
数日後に回答が来る。
もう一度段取りを組み直す。
そして最終的には納期が迫っているので、残業して間に合わせる。
製造業では、決して珍しくない話だと思います。
ここで注意したいのは、
「作業していなかった時間=余っていた時間」ではない
ということです。
その案件を製作するつもりで人や設備を確保していたのであれば、本来はその時間に別の仕事を入れられた可能性があります。
つまり、会社から見ると機会損失が発生しています。
しかも、この時間は原価として非常に見えにくいものです。
材料を使ったわけではありません。
加工実績も残らないかもしれません。
それでも、
「この案件のために予定を確保していた」
という事実はあります。
例えば、5日間の製作期間を予定していたとします。
ところが図面や仕様が決まらず、最初の2日間に予定通り仕事を進められなかった。
それでも最終納期は変わらない。
すると、残り3日間に仕事が集中します。
結果として、
- 別の仕事を入れられなかった時間
- 段取りをやり直す時間
- 納期直前の残業
などが発生します。
つまり、
仕事が止まっていた時間と、後から発生した追加負荷の両方でコストが発生している
可能性があります。
だからこそ、
「現場が忙しい」
という状態だけではなく、
その時間のうち、どれだけが実際に売上につながる仕事だったのか
を見る必要があります。
4.100%稼働しなければ売上目標に届かない状態になっていないか
もう一つ、確認しておきたいことがあります。
それが、
会社の売上目標が、どの程度の稼働を前提に成り立っているのか
です。
例えば、
「全員が毎日ほぼフル稼働し、仕事が途切れなければ売上目標を達成できる」
という会社があったとします。
これはかなり厳しい状態です。
現実には、
- 有給休暇
- 病欠
- 打ち合わせ
- 段取り
- 設備トラブル
- 材料待ち
- 顧客からの回答待ち
- 手直し
- 仕事と仕事の間の隙間
などが発生します。
人も設備も、100%の時間を売上につながる作業だけに使うことはできません。
したがって、
100%近い稼働を前提にしなければ必要な売上を作れないのであれば、そもそもの価格設定や時間当たりの売上を見直す必要がある
かもしれません。
一方で、「稼働率が高ければ高いほど良い」ということでもありません。
需要以上に設備を動かせば過剰在庫になることもありますし、稼働率という数字そのものが目的になってしまうと、本来見るべき問題を見失います。
稼働率の考え方については、こちらの記事で詳しく整理しています。

大切なのは、
「稼働率を何%にするか」
だけを追いかけることではありません。
自社が現実的に確保できる稼働時間の中で、必要な売上と利益を作れる構造になっているか
を見ることです。
5.「もっと仕事を取る」の前に確認する
売上が足りないと、
「営業を強化しよう」
「新規顧客を増やそう」
「もっと仕事を取ろう」
と考えがちです。
もちろん、新規開拓は重要です。
しかし、現場がすでに忙しいのであれば、その前に一度確認してみてください。
なぜ、これだけ忙しいのに売上が足りないのでしょうか。
ここが説明できないまま仕事だけを増やすと、さらに現場が忙しくなる可能性があります。
例えば、現在の仕事の価格が低すぎるのであれば、仕事量を増やすよりも、まず価格について取引先と協議する必要があるかもしれません。
その際には、「高くしてください」とお願いするだけではなく、
- どの製品・工程なのか
- どれだけの工数がかかっているのか
- どのコストが上がっているのか
- 自社でどこまで改善してきたのか
を整理して交渉することが重要です。
価格転嫁をどのような資料で、どのように進めるのかについてはこちらでも詳しく紹介しています。

営業を増やすことも必要です。
価格を見直すことも必要です。
生産性を上げることも必要です。
しかし、どこから手を付けるべきかは会社によって違います。
その判断をするためにも、まず、
今ある時間がどのように売上へ変わっているのか
を確認する必要があります。
まずは3つの数字を確認してみる
難しい仕組みを作る必要はありません。
まずは、代表的な案件や製品について、次の3つを確認してみてください。
- 見積もった時間
この仕事を受注するときに、何時間かかると考えていたのか。 - 実際にかかった時間
実際には何時間かかったのか。 - 予定していたのに仕事ができなかった時間
図面待ち、仕様待ち、材料待ちなどによって、本来予定していた作業ができなかった時間はどの程度あったのか。
これらを並べて見るだけでも、
「見積もりが甘かった」
「思った以上に段取り時間が長い」
「お客様からの回答待ちが多い」
「この仕事はかなり時間を使う割に売上が小さい」
といったことが見えてきます。
最初から全製品を管理する必要はありません。
まずは代表的な案件から始めてみる。
Excelでも構いません。
日報に項目を少し追加するだけでも構いません。
重要なのは、記録すること自体ではなく、
その数字を使って、価格・生産性・仕事の受け方を考えられるようにすること
です。
まとめ|「忙しさ」ではなく「時間が売上に変わっているか」を見る
現場が忙しいこと自体は悪いことではありません。
仕事があることはありがたいことです。
しかし、
忙しい。
人が足りない。
新しい仕事をすぐに入れられない。
それでも売上や利益が足りない。
という状態なのであれば、一度その構造を確認した方がよいと思います。
見るべきポイントは、
- 値付け
- 生産性
- 売上になっていない拘束時間
です。
現場改善というと、
「作業を速くする」
「ムダをなくす」
といった話になりがちです。
もちろん、それも重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
現場の時間がどう売上になり、どう利益につながっているのかまで見る必要があります。
「忙しい工場」をつくるのではなく、「使った時間がきちんと価値に変わる工場」をつくる。
そのために、まずは現場の「忙しい」を経営の数字につなげて見てみてはいかがでしょうか。
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