IoTがただのデータの見える化に留まるのか、データを有効活用して企業価値を高めるのか、そのポイントは各企業の工夫にあります。この記事では、IoTの本当の意味での活用方法と、IoTが企業にどんな価値をもたらすのかをお伝えします。
目次
はじめに
IoT(Internet of Things)という言葉が広まってからしばらく経ちますが、近年、製造業界ではIoTの導入が急速に進んでいます。IoTは、機器やセンサーがインターネットを通じて互いに通信し、データを収集・共有する技術です。この技術により、製造現場の状況をリアルタイムで把握することが可能になり、生産効率の向上や品質管理の改善が期待されています。
しかし、IoTを導入した企業の中には、期待した効果が得られず、うまく活用できていない例も少なくありません。データを収集するだけで、そのデータをどう活用すれば良いか分からない、あるいは具体的な問題解決に結びつけることができないといった理由が背景にあります。
また、IoTの導入を検討している企業の中には、その活用イメージが湧かず、導入に踏み切れないケースも見られます。センサーを含むシステムの導入には多額の投資が必要なため、成果が不確実であれば導入を躊躇してしまうのも無理はありません。
IoT導入を盲目的に進めることにはリスクが伴います。データを集めること自体が目的となってしまい、本来の目的である「現場の問題解決」に結びつかない場合、導入コストがムダになる可能性もあります。IoTの導入は、単なる流行に乗ることではなく、具体的な目的と計画を持って進める必要があるのです。
では、IoT導入の目的は何でしょうか?
それは、現場のデータを可視化することではなく、具体的な問題を迅速に発見して解決をしていくための手段の一つとすることです。IoTは、データをただ集めるためのものではなく、そのデータを現場の実状に基づいて効果的に活用することで、初めて真価を発揮します。
データの可視化の重要性
IoTの導入の目的は、現場のデータを可視化することではないと述べましたが、データの可視化は、製造現場における問題解決の第一歩であることに違いはありません。データをただ収集するだけではなく、それを分かりやすく表示することで、現場の状況を直感的に理解しやすくなるということです。これにより、問題の発見や対策の立案がスムーズに進むのです。
たとえば、製造業において広く知られているQC七つ道具(パレート図、ヒストグラム、特性要因図、散布図、管理図、チェックシート、層別)は、データを可視化するための基本的なツールです。これらのツールが普及した背景には、データがあることを前提に「どうやって見せるか」が重要だと認識されていることがあります。
パレート図を使えば、問題の原因を視覚的に把握でき、対策を立てる優先順位が明確になりますし、ヒストグラムを用いることで、データの分布状況を一目で理解でき、工程のバラつきや品質のバラつきを簡単に確認することができます。これらのツールは、データを見える化することで、問題の本質をより深く理解しやすくしています。
IoTにおいても、収集したデータを基にして、あの手この手で現場の“問題”を見える化する必要があるのです。
製造現場には、膨大な量のデータが存在しています。機械の稼働データ、品質データ、作業進捗データなど、さまざまな情報が日々生成されています。これらのデータを活用し、現場の状況、ひいては“問題”を正確に把握することが求められますが、膨大なデータをただ眺めるだけでは、問題の全体像を掴むのは難しいものです。
可視化だけでは解決しない理由
IoTを導入したにも関わらず、その効果を十分に発揮できない企業や、導入に踏み切れない企業が多く存在しますが、その理由の一つは、前章で述べた“データをただ眺めるだけ”になってしまっていることが挙げられます。
IoTにより取得した一次データだけを見ても、具体的なアクションに結びつけられないのです。
一次データとは、センサーや機器から直接収集された生のデータです。たとえば、温度センサーの数値、機械の稼働時間、製品の出来上がり数や不良数などが挙げられます。しかし、これらの一次データをそのまま見ても、現場の具体的な“問題”を把握するのは難しいのです。
「IoTで工場まるごと見える化!」
「作業現場がデータで見える!」
IoTシステムの販売を進める事業者は、こんなキャッチコピーでPRをしています。
こうした売り込みを受けているお客様から聞かれる声は、
「データが見えて、、だから??」
という疑問の声です。
IoTを活用してデータを収集することは重要ですが、そのデータをどのように活用し、どのようなアクションにつなげるのかがカギとなります。
ここで、基本中の基本である製造現場のカイゼンのPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを考えてみます。このPDCAサイクルを効果的に回すためには、まずPの段階で問題を定量的に表現することが必要です。つまり、現状のデータと理想的な状態とのギャップを明確にし、そのギャップを埋めるための具体的な数値目標を設定することが重要なのです。
たとえば、ある設備の稼働率が80%であるとします。この数字自体は、負荷時間に対する稼働時間を計算した二次データですが、理想的な稼働率が95%である場合、稼働率に15%のギャップがあることが分かります。このギャップとなる15%が問題であり、これを解消するための具体的なアクションを考える必要があることが分かります。
ここでは二次データを活用した問題の定義をしましたが、実際にはさらに加工した三次データが問題の理解に役立つことが多いのです。
しかしながら、設備の稼働状況の一次データのグラフだけを見ることができることを指して「IoT!」と言っている場面をよく見かけます。たしかにIoTには違いありませんが、それでは何の問題も解決することはできない、言い換えれば、カイゼンにつながるアクションを起こすことができないのです。
したがって、IoTで取得した一次データを加工し、それぞれの現場に適した形で“問題”を表現することが必要になるのです。
自社の現場に合った数値への変換
前章で述べたように、一次データをそのまま見ても、現場の問題を具体的に把握し、解決するのは難しいことが分かりました。問題を効果的に見える化するためには、一次データを自社の現場に適した形で加工し、定量的に表現することが重要だということもご理解いただけたものと思います。さて、ここで重要なのは、現場が具体的なアクションを取れる数値を導き出すことです。
製造現場には、さまざまなデータが存在します。稼働率、不良率、歩留まり率、生産速度、生産数量、消費電力量、製品一つ当たりのエネルギー量などがその代表例です。これらのデータは、現場の状況を把握し、問題を特定するための重要な指標となります。しかし、これらのデータをそのまま使うのではなく、自社の経営方針や品質方針に合った形で加工することが求められています。
自社の現場に適した数値に変換するためには、創意工夫が必要です。以下に、具体的な例を挙げながら説明します。
指標例①:稼働率
稼働率は、機械や設備が実際に稼働している時間の割合を示します。しかし、単に稼働率を表示するだけでは不十分です。たとえば、目標稼働率と現状の稼働率を比較し、そのギャップを明確にすることで、具体的な改善点が見えてきます。また、時間帯別の稼働率を分析することで、稼働率が低下する原因となる時間帯を特定し、対策を講じることができるかもしれません。そもそも、稼働率の“分母”と“分子”をどのように定義するのかも課題だったりします。誰かが勝手に計算した数字を使うのではなく、こうした自社に合った数字を見つけて計算する創意工夫が重要です。
稼働率の詳細については、以下のブログ記事をご参照ください。
設備稼働率の悩みはこれで解決【性能稼働率・時間稼働率・良品率の3つに分類】
指標例②:不良率
不良品の割合を示す不良率は、品質管理の重要な指標です。単に不良率を表示するだけでなく、不良品の発生原因や発生場所を特定することも重要と言えるでしょう。たとえば、製品ごとの不良率を分析し、特定の製品で不良品が多発している場合、その製品の製造プロセスを見直す必要があります。単純に不良率を表現するのではなく、自社の製造プロセスを適切に区分し、製造プロセスごとの不良発生状況などもデータとして正確に取得していくことも工夫のポイントです。もちろん、不良の現象別、発生原因別などの分類も必要になります。
指標例③:歩留まり率
歩留まり率は、投入された原材料のうち、製品として使用できた割合を示します。この数値を高めるためには、製造プロセスの中でムダに使用されてしまった材料を削減することが求められます。たとえば、製品ごとの歩留まり率を分析し、歩留まり率が低い製品の製造プロセスを改善することで、全体の歩留まり率を向上させることができます。そのためには、どのように製造プロセスを定義するのか、手直しせずに良品になった「直行率」はどのくらいなのか、手直しによるロスはどのくらいなのかなど、総合的に判断できるようなデータの取集や見せ方が重要になるでしょう。
指標例④:生産速度と生産数量
生産速度と生産数量は、製造ラインの効率を示す重要な指標です。これらのデータを基に、目標生産速度や目標生産数量を設定し、現状とのギャップを明確にすることで、具体的な改善策を立案することが可能です。ここでも、そもそもの目標をどのように設定するのかがポイントになります。ただの願いごとのような数字ではダメですし、「昨年は●●だったから今年は〇〇!」という盲目的な数字にしてしまうと現場のモチベーションは下がります。その目標とのギャップはどのくらいなのか、どのような方法でギャップを埋めるのか、そのギャップを埋めるための別の指標は何なのか、など工夫のポイントはたくさんあります。
指標例⑤:消費電力量と製品一つ当たりのエネルギー量
エネルギー消費は、製造コストに直結する重要な要素です。消費電力量や製品一つ当たりのエネルギー量を分析することで、エネルギー効率の改善点を見つけることができます。たとえば、特定の設備が他の設備に比べて多くのエネルギーを消費している場合、その設備の使用方法やメンテナンス方法を見直すことが求められます。また、設備の自動運転中や停止中の電力を明確にし、停止中の電力削減のために電源オフなどの対策をすることもできるでしょう。昨今のGX(Green Transformation)でも、こうしたデジタル技術の活用による省エネルギー化が求められています。
さて、上記で挙げた指標はほんの一例ですが、自社の現場に適した数値を導き出すことは、現場が具体的なアクションを取るための第一歩です。これには、現場の作業者や管理者が理解しやすく、かつ具体的な改善策を立てやすい数値を考えることが重要です。こうしたKPI(重要業績評価指標)を設定し、その達成度を定期的に評価することで、現場全体のパフォーマンスを向上させることができます。
IoT導入によるカイゼンサイクルのスピードアップ
製造業において、迅速に問題を発見し解決する能力は、企業の競争力を左右する重要な要素です。PDCAサイクルにおける問題の早期発見の重要さは前述したとおりですが、同時に評価も素早く定量的に行えることが重要です。IoTの導入は、この問題発見と評価のプロセスを大幅に加速させる手段として非常に有効なのです。
PDCAサイクルは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)という4つのステップを繰り返し行うことで、継続的な改善を図る手法ですが、このサイクルの中で、特に重要なのが「Check(評価)」のステップです。ここでの評価が迅速かつ正確に行われることで、次の「Act(改善)」ステップでの対策が適切に講じられます。
課題設定のプロセスにおいても、迅速な問題発見は非常に重要です。課題設定プロセスは、問題の特定と定義、情報収集と分析、問題の再定義、課題の形成と優先順位付けのステップから構成されますが、このプロセスにおいて、問題を早期に発見し、正確に定義することが、適切な課題設定のカギとなります。
IoTの導入の最大の目的は、現場のデータをリアルタイムで収集・分析し、迅速に問題を発見することと、実施したカイゼンを素早く定量的に評価することにあります。
従来の方法では、問題の発見に時間がかかり、対応が遅れることが多くありました。IoTを導入することで、この時間を大幅に短縮し、問題発見から対策実施までのプロセスを迅速に行うことが可能になります。
また、計画して実施した施策を適切に評価し、次のアクションを検討するプロセスにも、データ収集から分析までに多くの時間を要していました。この点についても、IoTを活用して素早くデータを収集して評価を実施することができれば、カイゼンサイクルのスピードを速めることができます。
これこそがIoT導入の最大の目的であることを理解し、自社のカイゼンプロセスや指標を正しく理解した上で、IoT導入をすることをお勧めします。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
IoTというバズワードに惑わされず、地に足を付けたカイゼンを進めるための土台(指標の設定とカイゼンサイクル)をしっかりと構築し、その上で、どのようにIoTを活用できるのかをイメージしてから導入を進めていただきたいと思います。
そうしたIoT導入の検討プロセスの中で、自社にとってどのような指標を掲げるのかにお悩みの方、カイゼンサイクルの構築にお困りの方は、遠慮なくご連絡ください。最初のこうした土台作りが非常に重要ですので、パッケージ的にテンプレートを押し付けるのではなく、御社が土台を構築するプロセスと、カイゼンサイクルが自走できるまで伴走いたします。
また、IoTを導入したもののうまく活用できていない企業様においても、改めてどのような指標が良いのかを再検討することや、データ収集から指標の導き出し、そしてカイゼンサイクルの構築などを進めたい方は、遠慮なくご相談ください。
今のシステムを活かしながら、進める方法を一緒に考えていきます。
カイゼンサイクルのスピードを速めて、より楽しい働き方、やりがいのある仕事を実現しましょう!
<関連記事はこちらから>
お客様の声のご紹介
お客様へのインタビュー動画をご紹介しています。お気軽にご相談いただけますと幸いです!